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14-6 間話・心の強い婚約者〜オズバルド視点〜

本編最終話です。

 その後の私と言えば、では狭量な部分を直して心の広い男ということを見せられたか。……ということもなく。

 やっぱりそれなりの休暇をもぎ取って来たイル兄上とアル兄上は隙あらばネスティーを可愛がろうとして、私はそれを虫を追い払うように牽制していたけれど。なんだかネスティーがそんな私たちを見て楽しそうに声を上げて笑うから、まぁいいか、とも思っていて。

 まだまだ細いし小さな身体のネスティーに美味しい物を食べさせたいのは家族全員らしくて、アレもコレも食べるよう促されて目を白黒させるネスティーも可愛いし、そんなネスティーにデレっデレっな兄上達を見るとまた不快で不貞腐れる私がいるし。

 結局私はまだまだ未熟。

 それでも笑うネスティーが見られるし、出会った時よりも健康的になってきたネスティーが見られるし、私の知る範囲では両の掌の傷くらいしか分からないけれど、アズに傷痕はどうなっているのか毎日報告させて、少しずつ少しずつ傷痕が薄くなっている……気がすると聞いて。

 いや、もしかしたらメイク道具のお陰かもしれないとか聞きながらも、それでも良い方に向いていることを聞いて。毎日一緒に居られることが嬉しいと思える日々を送る。


「オズ様」


「ん」


「家出をした私を拾ってくれてありがとうございます。今はたくさんの家族と一緒に笑える日々を送れるようになったことがとても嬉しいです。お母様が亡くなりお兄様と離れて、もう私は心から笑える日が来るなんて思ってもいませんでした。色々いろいろあって、伯母様にも会うことが出来たし、お兄様にも会えることになったし、やりたいことが出来たし、やってもいいことも増えたし、お仕事をしてお金をもらって自分の欲しい物を自分で選んで買うことも出来るようになったし、アズ以外の人とたくさんお喋り出来るようになったし、美味しいご飯やお菓子をお腹いっぱい食べられるようになったし。痛い思いもしなくていいし、フカフカの寝具で毎日よく眠れるし、辛くても苦しくても悲しくても泣かない日を作らなくてよくなったし、嫌われないし、心の痛いことを言われないし。私を拾ってくれて、ありがとうございました」


 ネスティーの言葉に不覚にも涙が溢れた。

 王命で結ばれた仮婚約で。乗り気じゃなくて。王命だから断らなかっただけで最初は、嫌で仕方なかった、なんて口にも出さないけれど。

 でも多分、ネスティーはそんな私の気持ちも見透かしているのだと思う。

 でも。会ってみて分かった。

 この子は私が慈しみ守るべき存在だ、と。

 無意識に胸に浮かんだこの想いを自覚した時に、初めて、ああこれが唯一の伴侶を見つけた気持ちなんだって、理解した。

 理解した途端に他人がネスティーを構うことがとても不愉快になってしまったなんて、ネスティーに会う前の私が嗤うところだろうな、なんて思いながら。それでも、唯一とはそういうものなんだと自分に言い訳をして。

 王命が出なければ、きっと私がネスティーに会う機会なんて無かった。ネスティーは閉じ込められていたから。そうすれば、私はきっと唯一のことを諦めていた。必ず居るとは分かっていても、見つけることを諦めた方がいい唯一なのだろう、と諦めていた。自分で諦めた時から、唯一は見つからない。諦めた後で見つかることはない、と父上から聞かされていたから。

 もし、そうだったとしたら。

 私が唯一のことを早々に諦めていたとしたら。

 ネスティーは生きていなかったかもしれない。

 王命を拒否出来るわけじゃなかったけれど、父上に逆らっていたとしたら。

 ネスティーには会えなくてネスティーはこの世に居なかったかもしれない。そう思うと、父上が私にこの命を下してくれた事すら感謝する。

 だって私の唯一だから、兄上達ではもしかしたらネスティーを助けることが無かったかもしれない。

 そんな色々なことを思えば、王命である話を父上が私にしてくれたことに驚くし、父上の勘には頭が下がる。


 ーー私の方こそ、生きていてくれてありがとう。そう思うよ、ネスティー。

 これからはもっともっと笑顔いっぱいの日々になるように私も頑張る。

お読みいただきまして、ありがとうございました。


番外編を数話公開し、完結の運びとなります。

最後までよろしくお願いします。

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