14-4 間話・心の強い婚約者〜オズバルド視点〜
その後。
自称アル兄上の唯一と言った子爵令嬢は、というと。急な病に罹って領地で療養生活を送ることに決まった、と母上とネスティーが仲良くお茶会をしているところに乱入して父上は母上に報告した、らしい。ネスティーが教えてくれた。序でに件の子爵家を含めた全貴族家に改めて、ロイスデンの唯一は相手が宣言するのではなく、家族でもなく、本人だけが宣言出来ることだ、と冷笑付きで締めてきた、とはネスティーとのお茶会に乱入したことを母上に怒られた父上の説明。そんなわけでアル兄上の件は落ち着き、今度はこちらがネスティーの提案からの各エリア代表との話し合いについて報告する。
「さすがネスティーだ! 賢い私の娘だ!」
父上は上機嫌で「ベルトランではなく、ベルお父様と呼ぶことを許そうか」などと浮かれたことを言っているので、それは不要だと断っておく。父上は「心の狭い男は嫌われるぞ」と腹が立つことを口にしたがネスティーはそんなことを言わない、と放っておくことにした。取り敢えず、平民向けの宿の件は反対されることもなく、冒険者が泊まるのもこれならば問題無いだろうということで。
後は開業してみないことには予測したトラブルに予測外のトラブルは不明だからアル兄上と一緒に話を煮詰めていくことにした。アル兄上も領地に帰って来ている。社交シーズンだから長くは居られないが今回の騒動が落ち着くまで、という理由で。
だけど私どころか父上も母上もアル兄上のその理由が表向きなのは分かっているだろう。
アル兄上もイル兄上も妹が欲しかったことを。
だからといって下手に女の子を可愛がることは出来ない。父上と母上も女の子が欲しいと思っていたことは知っている。私は私で可愛がられていることは理解しているが、四人が待ち望んだ女の子、それがネスティーだ。
従姉妹や幼馴染にちょっと遠い親戚の子まで女の子が自分達や父上・母上に媚びない相手を見つけないと、とんでもないことになるのは、アル兄上もイル兄上も私も一度ずつ経験している。それも五歳くらいまでの、まだ小さな頃で「子どもの頃の話」で済ませられる時に。父上も母上も一度経験させることで、自分達の振る舞いがどのような影響を与えるのかを実際に教えてくれた。
似たような年齢の子達のお茶会で子息令嬢から揉みくちゃにされた恐怖は忘れられない。そしてその仲間入りを果たしてない子だから大丈夫か、と近寄ってみたらそれが作戦だったように媚びを売ってきた令嬢の絡みつくようなネットリとした視線も忘れられない。
ついでに、その令嬢が他の子達を牽制して自分が私の隣に立つ存在だ、と誇張していた姿も忘れられないし、だから迂闊に男女問わずに仲良しの子を作らない方がいい、と父上と母上に言われた理由を身を持って知ることになった経験も忘れられない。
その経験があるからこそ、自分達に媚びる事なく自然体で居てくれる相手は貴重なもので。
つまりまぁ、そんな自然体のネスティーのことを妹が欲しかったアル兄上とイル兄上が可愛がろうとしないはずはなく。私が牽制してアル兄上もイル兄上も王都に留まる期間が多い社交シーズンに、ネスティーを領地に連れて来たというのに、今回のことでアル兄上が領地に来てしまった。遠からずイル兄上もなんだかんだで騎士団の長期休みをもぎ取ってやって来るに違いない。
そして絶対、ネスティーを可愛がろうとするだろう。おそらく「お兄様」と呼ばせたいに違いないので先手を打ってネスティーには二人への呼び方を教えているが。……どこまでその呼び方が持つだろうか。優しいネスティーが兄上達に押されて「お兄様」と呼びかける未来しか見えない……。
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