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8-5 ロイスデン公爵家にて

「そのお茶に毒などないが?」


 側から見ればぼんやりと百合を見ていた私の耳に、低く擦れのある男性の声が届いた。擦れ具合が堪らないっ。なんていうか、歳を重ねたからこそ出てくる味のある声。

 其方へゆっくりと視線を向ければオズバルド様と同じ銀髪に薄紫の目。同じく細身の、けれどもオズバルド様の身長の倍程の背丈に長い銀髪を緩く左の耳下でリボンで纏めて肩下に垂らした、前世で言うところのスクエアで細いフレームの眼鏡を掛けた人がゆったりと歩いて来た。


 正直に言いましょう。

 眼鏡、どストライクです。出来る男感半端無いっ!

 見た目だけ出来る男で中身が伴ってないのは却下だけど、私の予想通りロイスデン公爵様ご本人ならば、中身が伴わないわけがない。

 おまけに考えていることが分からないように薄く微笑みを浮かべたままゆったりと歩く姿なんて、小娘である私など歯牙にも掛けない、と言いたげです。

 益々好みです。

 しかも近づくに連れて年齢を感じさせる渋みが入った眉間の皺なんて最高では? 目尻にも年齢を感じさせる皺あり。いいじゃないですか。整った眉は太めである事から意志の強さを表している。あー、そういえばオズバルド様も太めの眉でしたっけ。……遺伝? 目尻の皺だけでなく目の下に微かに見える隈はおそらく忙しさの現れ。

 高めの鼻に薄い唇と細い目が、今浮かべている微笑みすら冷徹さの表れのように思えます。しかも渋みがある。


 えっ、何のご褒美ですかね。

 私、精神年齢四十五歳がプラスされてますから、オズバルド様よりも公爵ご本人の方が、私の気持ちとしては恋愛対象です。断然此方でしょう。

 でも奥様居ますからね。人のモノに手を出すなんて違反はしません。


 ノー浮気。ノー不倫です。


 日本人だった時もそういう気持ちはありましたが、ネスティーに生まれ変わって、記憶を取り戻す前も同じ事を思ってました。まぁ父である伯爵が愛人囲って自分と年が変わらない異母妹を産ませている時点で嫌悪感有りますよね。

 とはいえ、好みはどストライク。

 欲を言えば黒髪黒目が良かったですが、銀髪薄い紫目でも違和感は覚えないですし、そこは許容範囲なのだと思います。


 ーーという事で、推しましょう。そうしましょう。


 どうせなら下僕とは言わなくても、この方に扱き使われたいです。この方の役に立てるならいくらでも扱き使われます。ええ、社畜でしたからね。


「初めてお目にかかります。ラテンタール伯爵家第二子・ネスティーと申します」


 自分史上最高のカーテシーでご挨拶をさせて頂きましょう。


「ふむ。私が誰か分かっていて冷静に挨拶が出来るとは、度胸があるな?」


「いいえ。内心は緊張しきりです。ですが、あまり社交場に出ない私の耳にもお忙しいと噂に名高いロイスデン公爵様が直々にお越し下さった以上は、私に出来る最高の挨拶をせねばならない、と思ったまでです」


「……成る程? 随分と正直に物を申す。貴族令嬢としては率直過ぎるにも程があると思うが?」


 侮蔑の視線なのか揶揄の視線なのか、それは私には判断が付かない。眼鏡の奥で目を細めたロイスデン公爵様が素敵で心臓が五月蝿いです。でも、此処で失態を犯すわけにはいきません。ロイスデン公爵様に合格をもらわなくては、影でこっそりと推すことも出来なくなりそうですからねっ!


「筆頭公爵家のご当主様を相手に嘘偽りなど見抜かれるのがオチならば、最初から率直に伝える方が心象は良いかと思いました」


 私はロイスデン公爵様の目をジッと見ながら答えれば「ほぅ……」 と感心したように頷かれます。さて、この反応は何の成果を齎してくれるのでしょうね?

 あ、そういえばお茶に関することを仰ってました。お答えしないなんて、有り得ないことをしてますね、私。

 一拍の後に。


「お茶に関してですが。毒や下剤等の心配は一切しておりません。一つは、筆頭公爵家でそのような物を仕込む使用人など居ないと思うこと。一つは、仮に仕込んだとしてもロイスデン公爵家に何の利益も無いこと。一つは、王命による婚約を結んだ私を排除したいのなら、ロイスデン公爵家で毒を飲ませ秘密裡に私の遺体を処分しても、王家にもラテンタール伯爵家にも隙を突かれるだろうこと。以上三つの視点から、心配はしておりません」


「ふむ。では何故手を出さない?」


「ロイスデン公爵様は、ご自分を見極める為とはいえ、試し行動をするような家で自分が信頼出来ない相手のお茶を供されてリラックスして喫することが出来る程、私という人間が豪胆に見えますでしょうか」


「なるほどな」


 つまり、私を試すことをしておいて、そんな家で信じられる使用人以外の人が淹れた茶をのんびり啜れる気概は無い、と言ったのです。

 その回答をお気に召したのか、それとも子どもっぽいなと思われたのか、理由は知りませんがククッと声を上げて笑いましたよ、公爵様。しかも薄い微笑みとは打って変わりクシャッと笑い皺を浮かべた笑顔です。

 記憶の引き出しに公爵様笑顔入れを専用に作りました。脳内再生バッチリです!

お読み頂きまして、ありがとうございました。

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