14-2 間話・心の強い婚約者〜オズバルド視点〜
そういうことならば、私はネスティーにアレコレと尋ねることはしない。……報復は別だが。そのことは別にネスティーに話さなくてもいい事だろう。
「ところでオズ様、ちょっと思ったのですが」
可愛らしい婚約者の声が一つ発せられる度に私の胸を打つ。その度に感動で胸が震えることをネスティーに、いつ教えればいいかな。教えたら可愛らしくはにかむのだろうか。などと思いつつネスティーの話に耳を傾ける。
「思ったこと」
「東と南エリアの様子を見ました。この後西と北も見るわけですが、オズ様は南エリアにて宿泊される人が少ないことに不満を抱いてらっしゃる様子」
ネスティーは私のことを考えてくれているようで直ぐにそんなことを言い出した。本当にネスティーは可愛いのに賢くて私の補佐役を既に行っていることも気づいてない所がちょっと抜けてて、でも可愛い。そんなことを思いながらネスティーの思ったことを聞いてみる。
「そう。南エリアも宿泊すれば良い所なのだが」
「おそらく貴族が泊まることから賑やかに歓迎されるより家の使用人と変わらず、何事にも動じないような対応を望まれるのでしょう」
「ああ、そのようだ」
「なので。いっそのこと、南エリアは平民向けにしてしまえばよろしいのでは?」
平民向け?
よく分からないので詳しい説明を頼む前に、ネスティーは続ける。
東エリアは一本気質。
南エリアは商人気質。
西エリアは個人を尊重し、北エリアは勤勉。という特徴がある。
とはいえ、大元は一つの公爵領の領民だから互いのエリアに交流はあるし、外から見れば同じロイスデン公爵領の領民。ただ南エリアの領民が商人気質であることが有名ときうわけではないのなら、貴族の目には馴れ馴れしく映ってしまうのではないか。だから、南エリアの宿は富裕層の平民向けや富裕層ではない平民向けに開放するのが良いと思う。その際、富裕層とそうでない平民とで料金は元よりサービスもランク付けをして変えてみるのはどうか。
それによって、富裕層の客の虚栄心も満たされると思う。場合によっては、下位貴族なども利用する可能性が出てくるのではないか。
ネスティーの説明はおおよそこのような形で、なるほど、と感心した。確かに他の領地の宿によっては平民向けの宿もあるが、それは富裕層向けの宿。富裕層ではない平民が他の領地に旅をすることもあまりないし、観光することなどもっと無い。だからこそ富裕層ではない平民向けの宿はどこの領地でも無かった。
冒険者は大体近くのギルドに泊まってやり過ごすか野宿だ。でも、寧ろ富裕層ではない平民向けの宿を敢えて整えてみることで、冒険者が宿を利用することもあるかもしれない。それに冒険者が貴族向けの宿を利用しないのは、貴族向けだからか宿全体が静かな空気に調度品もキラキラしていて触っただけで壊してしまいそうで、落ち着かないとか言っているらしい、と父上が話していたことがある。
父上は冒険者が利用出来る宿を考えたこともあるようだが、冒険者だけが利用するとなると、赤字になってしまいそうだ、と判断して止めたらしい。
父上ですら、富裕層ではない平民が旅をしたり観光したり、ということもあるかもしれない、という発想には至らなかったのだろう。
併し寧ろ積極的にそういった平民が旅をし易いように平民向けの宿として開放するのは有りだ。父上はどうせ、アル兄上の騒動を終わらせて来たら、母上に会いたくて直ぐに領地に帰って来る。だったら母上にネスティーの考えを話しておけばいい。
私は、ネスティーの案を母上に伝えることを決めた。
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