13-11 辿々しい二人の道
今朝は南エリアの代表さんとゆっくり話す間もなく私はオズ様から南エリアの外れにある小さな湖へ案内されています。小さいながらも美しい湖は周囲を歩くだけで結構いい運動に。
「花も綺麗だけど湖面の鏡のような美しさも素敵ですね」
「そう思ってくれたのなら良かった。私もこの湖が好きだから」
笑顔で感想を伝えればオズ様も嬉しそうに頷く。アズとヘルムが私達の後ろに控えていてお兄様は宿で寛ぐとのこと。デートの邪魔をする気はないよ、と言われて顔が熱くなったことを思い出します。
「ネスティー、どうかした? 疲れた?」
「あ、いえ、お兄様からデートを楽しんでおいで、と言われたことを思い出しまして。ちょっと恥ずかしくなってしまいました」
正直に打ち明ければオズ様の頬も赤くなって。
「デート、だけど。改めて言われると恥ずかしいものだな」
「……はい。でも、嬉しいです」
「嬉しい?」
「お、オズ様とデートが」
もう一度素直に言えばネスティーが可愛い、とオズ様が照れ笑いをしています。私、可愛いのでしょうか……。でもそう言ってもらえるなら良しとしましょう。
一周をゆっくり歩くとちょうどランチの時間ということで、オズ様が公爵家本邸の料理人さんに腕を奮ってもらったというサンドウィッチをアズに持たせていました。ちょうど良く小休止出来るガゼボが湖面が見えるように設置されています。
ローストビーフとレタスたっぷりのピリ辛マスタードがパンに塗られたサンドウィッチはシンプルながらもボリュームがあって一つ食べるだけでお腹がいっぱいになりそうです。私の身体はまだまだ小さくておそらく胃も小さいので量が食べられません。
それを心得ている本邸の料理人さんは、私用に焼き菓子も準備してくれていました。サンドウィッチに焼き菓子で満腹です。尚、オズ様の給餌行動はずっと続いてますので、今もそう。慣れとは恐ろしいもので今や気にならなくなりました。というか、オズ様に食べさせてもらうのが楽しみな自分がいて無いと落ち着きません。
「ネスティー、私の手を見てどうかした?」
「いえ、オズ様から食べさせてもらうことがなんだか楽しみで無いと落ち着かなくなってしまったな、と」
ポロリと溢せばオズ様が感極まったような震える声でネスティーが本当に可愛すぎて辛い、と言い出しました。え、辛いのですか?
「それなら毎食私が食べさせてあげるからね」
「でも、それですと私とオズ様が仕事を始めたら時間が合わないかもしれないですし」
「でもネスティーは書類仕事をしてみたい、という話だったよね?」
「はい」
「私はこの領地で父上の補佐を、ゆくゆくはアル兄上の補佐を行うわけで、その私の補佐としてネスティーに書類仕事をしてもらうわけだから、常に私と一緒だよ? だから食事の時間も同じになる。何も困ることはないよ。アル兄上も父上と同じく王都と領地を行ったり来たりするだろうから、アル兄上が王都に居る間は私が領主代行になるし」
その具体的な話に頷きつつ、一つ気になることが出来ました。
「ええと、騎士様はどうされますのでしょうか」
「イル兄上は、現在父上が持っている余剰の爵位を受け継ぐことになっている。アル兄上が現在爵位を受け継いでいる伯爵位をアル兄上の子が継ぐ。そのほかに父上が持つ子爵位をイル兄上が継ぐ。ネスティーが貴族にこだわっていないから私は平民として父上や兄上の補佐をする。イル兄上も子爵位を継いだらアル兄上の補佐をする事になるけれど、どちらかというと騎士の役割ということで、国境警備の方が主体になる。これは父上の弟……私の叔父上が現在行っている仕事だね」
なんと、イルブルド様が騎士団に入団しているのは、国境警備の仕事のためとのことでした。それでオズ様は領地内の内政補佐なのだそう。
尚、ベルトラン様の弟に当たられる国境警備を任されている叔父様はご自身で騎士爵を持たれているそうです。つまり実力で貴族の爵位をもぎ取った凄い方ということで、つくづく規格外な公爵家の皆さまだなぁ、と感心します。
お読みいただきまして、ありがとうございました。




