13-6 辿々しい二人の道
理解して真っ赤になっているだろう私に代わり、オズ様がシャキッと立ち上がりました。
「花壇作ろう。ネスティーの好きな花を植えるといいよ。そのためにも先ずはネスティーが住みたいと思う場所を見つけよう」
オズ様がそう仰るので「そうですね」と首を上下に振りながら視線を他に向けました。円形の広場の向こうには二箇所の歩道が続いてます。
オズ様の案内によりますと、右手側の歩道は店が立ち並ぶ建物。左手側の歩道は人家に続くとのことです。右手側の方は前世で言う所のレストラン・本屋・洋服店・文房具店・家具店・雑貨店・日持ちする焼き菓子店やその日に仕入れた所謂食品店などなどがあるそうで、それに加えて小さいけれど子どもの教育の場である所謂学校や病院もあるとか。
そこでようやく思い出したことがありました。
「そういえば、オズ様は学園に通わないのでしょうか」
私の疑問にオズ様が珍しく首を傾げました。
「学園? 私は領地の学園に通う気はないよ。王都の学園のことなら、あれは当主の座を継ぐ跡取りのための領地経営クラス。騎士を目指す者の騎士クラス。使用人……侍女や執事などを目指す使用人クラスに王城や領主達の側近や文官を目指す文官クラスだから、その目的が無い者は入らないだろう。婿入りをすることが決まっている者は文官クラスだけれど嫁入りする者は寧ろ婚家で色々と教えてもらうから必要ないはずだ」
……あれ?
なんか、思っていたのと違わない?
「その、貴族同士の交流のためのものか、と」
思わず学園へのイメージを口にすればオズ様が更に不思議そうな表情になりました。……コレ、きっと私、やらかしてますよね⁉︎
「お嬢様は学園について説明をしたことがございませんでしたね、そういえば」
しみじみとした声でアズが呟きます。このしみじみ具合からも分かります。学園のイメージ、全く違うんですね!
「そうか、ネスティーは学園がどういう所か知らないのか。それでは疑問に思っても当然だね。この国で領地を戴いている貴族家全てが自領に学園を造っているわけではないけれど、公爵の位を戴いている家の領地には平民向けの学園がある。識字や簡単な計算を教えるために。子どもも大人も勉強したい者は全てが対象で、領地によっては無料で開放している。王都にある学園は貴族向けだけれど、今も話したように目的がある者が入学する。
それも領地経営クラスを選択している者は殆どが二年を目安に卒業する。あとは自領に行って領民達や自領を支えてくれる臣下達に会って顔を覚えてもらうのと共に、実際に領地経営に携わることで経験値を積んでいくためだ。
他クラスはある程度の実力を備えないと卒業出来ないから、卒業時は人それぞれだね。二年から三年で卒業する者もいれば五年過ぎても卒業出来ない者も居る。そこはもう実力次第だから仕方がない。
王都の学園は貴族の子息子女が通うものだから、その家の事情により早いと十三・四歳から入学出来る。ただ成人が十八歳で、成人してから一年後までが卒業の目安かな。文官にしても使用人にしても成人している以上早く勤め先を見つけなくてはならないからね。男女問わず二番目以降の子は貴族と言えども家が持つ爵位が他にある以外は平民に身分を移すからね。平民に身分を移したのなら自分で働くのが当たり前だ。だから成人してから一年後までに卒業して勤め先を見つけるのが通常だね」
あれですね、前世日本人の方がいらっしゃるオーデ家があったからか、学園の実態を聞くと、高校か大学というより専門学校的な感じがしますね。
就職先で即戦力になるための勉強をしましょう、的な。前世の異世界モノ系の作品でよく見るキャッキャウフフの貴族社会の学園とは違ってましたね。そりゃあ貴族同士の交流とは掛け離れてますよね。不思議そうな顔になるのも頷けます。
……じゃあ当主になった時のために、とか、夫人になった時のために、とか、そのための交流ってどうしているんですかね?
この疑問にも、オズ様は当たり前のようにお答えくださいました。曰く。
「だからお茶会やら夜会で顔合わせをして覚えてもらうし、覚えていくんだよ」
……なるほど。確かに社交場なのだからそういうことです。
「というより、学園に通える年齢は限りがあるからね。その通える範囲で親しくなった人だけで貴族の世界はやっていけないよ。親世代の人が現役で当主を務めている家もあれば、学園に通っている間に顔を合わせられる年齢の外の方が跡取りということもあるからね」
……言われてみれば納得です。学園に通っていられる年齢、最大で十三歳から十九歳ですよね。例えば十三歳で入学した際に二十歳以上の年齢の跡取り世代ということもあり得るわけですものね。そうしたら学園で交流なんて出来るわけがない。
だから同じくらいの年齢のお茶会を開催する家もあれば、王家主催の跡取りのみ参加出来るお茶会というのもあるわけで。その他令嬢のみのお茶会だって下限は十歳。上限は無かったですもんね。令嬢のみというのは未婚者のことを示しますからね。成人していても結婚していなければ参加出来るわけですから。
……そりゃあ学園で貴族同士の交流をするという考えの私が不思議になるわけですねー。
お読みいただきまして、ありがとうございました。




