12-2 先ずは“好き”を信じてみる
「見抜かれてしまいましたね」
「まぁ信じてもらえないだろうとは思っていたからね」
私が困ったように笑えばオズ様も苦笑した。
「言葉の意味は理解出来るのです。でも」
「信じられないのだろう? 私は両親にも兄上達にも愛されていると自覚しているし、使用人達も領民達も大切にしてくれていると分かっている。そんな私ではネスティーの辛さや悩みも理解出来ないだろうけれど、君と離れる気は私が死ぬまで無いから、信じてもらう努力を一生すれば良いと思っている」
サラリと重たいセリフが入って来ましたね。
「ええと、どちらかが死ぬまででは……?」
何故、オズ様が死ぬまでなんでしょう。
「ネスティーが先に死んだとしてもその墓の隣に小屋でも建てて生きるから私が死ぬまでで間違いないよ」
……どうしましょうか。思った以上に重たい愛情みたいです。
「ええと……お手柔らかに?」
他にどう言えばいいのか分かりませんが、先ずは信じてみようと思いましたから。
「うん。では、毎日の食事かお茶の時間のどこかで必ず給餌はさせて」
何ですと⁉︎
ま、毎日⁉︎
毎日この恥ずかしい真似を行う、と⁉︎
「え、ええとお手柔らかに、とお願い……」
「ん? 毎食給餌をさせてくれるって?」
「いえ、毎日どこかでお願いします!」
毎日は恥ずかしい、と否定するより早く言葉を被せられました。毎食よりは毎日の方がまだマシですよね。うん。
「それから、毎日手を繋ぐことも慣れてもらおうと思っているし、まだまだネスティーは体力がないから毎日公爵家の庭を私と一緒に散歩して体力をつけて、それから……」
「ちょ、ちょっとお待ちを!」
な、なんか急に要望が多くなりましたけど⁉︎
「どうかした?」
「あ、あの、オズ様、色々と性急でして」
「そんなことはないよ。まだまだやりたい事があるから必要最低限の要望だし」
「必要最低限⁉︎」
いやもう、どこからどう突っ込めばいいのか分かりません……。
というか。
「あ、ええと、私とお兄様とアズとヒルデの今後とか……話し合いは」
「うん。それは今、父上と話し合っているから、そこで決まってから報告するね」
その話し合い、報告するという時点で、私たちの意思は無いまま決まってしまうということで、合ってますか?
「ええと、私達の意見は……」
「うん? だって、ネスティーは、義兄上とアズとヒルデと一緒ならば別にどこで暮らしてもいいんだよね?」
「それはそうですけど」
「どこか暮らす場所の希望があるの? ロイスデンの領地ならば構わないわけだったね?」
「希望というか。知らないからこそ、領地を見て場所を探したいと言いますか」
「ああ、それなら大丈夫。どこでも好きな所に住めるようにするから。だからゆっくり領地を見て回ろう」
……それは有り難いのだけど、じゃあ今後の話し合いを私達抜きでって、何を話し合っているんですか?
「それじゃ話し合いって」
「義兄上がどんな仕事に就きたいのか、私は領地で誰の補佐に付けばいいのか、ネスティーが出来る仕事があるか、そんな話?」
オズ様の返事に目を瞬かせてしまいました。
「なぜ……」
「ん?」
「何故、私に仕事をさせようと?」
「えっ、だってネスティーは自力で立ちたいから働きたいって、父上と母上に宣言したからね。 伯爵家を出る前に。それから宰相様の領地でも仕事をしたいって色々知りたがっていたね? 今も働きたいと思っている。私はそう判断したが?」
当たり前のように、オズ様は私がやりたいと思うことをやらせようとしていて。
仕事なんてする必要はないとも言わないし、やりたい事を押さえ付けることもしないし、十五歳のはずなのに、一応父親の伯爵よりもよっぽど精神年齢が高くて。
この人が、婚約者で良かった……と不意に強く思った。
この国では女性が働くことは嫌厭されていて、実際に働いている女性は平民でも嫌味のオンパレードを浴びせられ、貴族階級の女性は嫌味に嘲笑が加わり、令嬢ならば結婚相手としての価値が無いと見られ、夫人ならば夫に見向きもされない憐れな奥方と揶揄され、未亡人ならば子どもがいなければ頼る相手が居なくて可哀想だと蔑まれ、子どもがいても婚家の中での立場が弱くて居場所も固められないと嘲笑される。
そんな国で。
だからこそマリーベル様は私が働きたいと言った時に引き止めて下さったわけだけど。
オズ様は、私が働きたいという気持ちを否定せずに当たり前のように働き口を探してくれる。
そんな人なんて、中々居ないと分かる。
私を尊重してくれるって、こういうことだと示してくれているようで、とても嬉しく思う。
お読みいただきまして、ありがとうございました。




