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11-2 モヤモヤした気持ちを打ち明けます

「でも、一つだけ訂正させてね」


「訂正ですか?」


 マリーベル様は私の境遇からの不信を咎めることもなく共感して下さったが、不意に真剣な目をしたかと思えばそんなことを仰った。


「ネスティーちゃんは王命による婚約で結ばれているし、オズの唯一だし、確かにオズに婚約者は作らなかった。もちろん私もベルもそのつもりは無かったからオズを含めて誰にも婚約者は居なかった。でも」


「でも?」


「実はオズに婚約者は居たのよ」


 此処に来てまさかの事実です。オズ様に婚約者が居た、とは……。


「えっ、私、オズ様の婚約を壊してしまったのですか⁉︎」


「ああいえ、違うの。今も言ったように婚約者はアルもイルもオズも居なかったの。誰にも婚約者は居なかったのよ」


「でも婚約者が居た……?」


「ええ。オズバルドの婚約者ではなくて、オズの婚約者だけど」


 どういうことなのかさっぱり分からない私にマリーベル様は、此処から先はオズも知らないことよ、と前置きされて話してくれた。

 それによると、抑々オズバルド様には双子の弟が居たらしい。

 オズワルドという名前をお付けになられたそうだが、マリーベル様の妹君で先王の第二王女殿下が他国へ現在嫁がれて王弟妃となられている。その方は残念ながらお子が出来なかった。


「王弟殿下は側妃をお迎えになるように周囲から言われたのだけど側妃ではなく、子を産むだけの妾を言葉は悪いけれど買ったの。でもね、その妾も三年間、子が出来なくて」


 つまり、王弟殿下に問題があった、ということ。それで妾の方はそれ相応の報酬を与えて縁を切られたらしい。


「でも、妹は周囲から子を産めない女と蔑まれていたことと、王弟殿下を愛し愛されていたからこそ、別の女性を囲うことに心を病んでしまって。王弟殿下も妹を愛しているからこそ、側妃ではなく子を産むだけの妾を囲ったわけだけれど。それでも妹は耐えられなかったのよ」


 話を聞いているだけで心が痛い。


「王弟殿下はご自分に問題があったから、妻をもう責めないでくれ、と仰って養子を取ることにしたのだけど。あの国の王族は少ないからこそ王弟殿下自身の血を引く子が居て欲しかったのに、その血を引く子は出来ないことが分かった。でも王家の血はなるべく多く残したいという国の重鎮達の話から、国王陛下のお子を養子にする話が出たの」


 ……まぁ王族の血を残すというのならそういうことになってもおかしくないのだろうけれど。

 別にわざわざ王弟殿下の養子にしなくても遡って王家の血を引く誰かでもいいのでは?


「でも、それを王弟殿下自身が反対された。一つは国王陛下がまだ王太子をお決めになられていなかったこと。だからどの王子を養子にするのか話し合いが進まないことが分かっていたのね。二つ目は妻である王弟妃を追い詰めたのは国の重鎮達だから、その思い通りになりたくない、というもの。さすがに重鎮達も気不味い思いをしたのね。渋々国王陛下の子を養子にする件は諦めた。でも王女を養女にすることを提案して来たのよ」


「諦め切ってなかった、と?」


「そうね。でもあの国では女性が当主には就けないから、婿を迎えてその婿に当主の座を渡す事になるの。でも政略的なものを考えると下手に国内の貴族家から婿を取ると乗っ取られてしまう。だから他国から婿入りして婿の生家に手出しをさせない方向に話が決まった」


 なるほど。

 他国に生家があるのなら乗っ取りは阻止出来る。手紙のやり取りなんて検閲が入るだろうから迂闊なことは書けないし、国境を超えるのに密かには無理よね。スパイだと思われて捕らわれるのがオチだから。正々堂々と使者として入り込んでも監視はされるだろうからやっぱり迂闊なことは言えないし。

 ……此処まで話を聞けば鈍い私でも読める。


「もしかして、その白羽の矢が……?」


「ええ。オズバルドの片割れオズワルド。ちょうど生まれて直ぐだったのよ。王弟殿下が打診してきたのは。妻が慕う義姉君の子の誰かを婿入りさせてくれないか、と。それで私とベルが考えたのはイルを養子に、と思っていたの。でも私が双子を産んだことを王弟殿下の使者が知って、その王弟殿下の使者が里心が付いてしまうと可哀想だから、生まれたばかりの子の方が良い、と言われ。私も子を手放すのは辛いけれど妹のことを思えば……と、もう一人のオズを手放したの」


 私はなんて言えばいいのか分からずコクリと頷くだけ。小説ではオズバルドに双子の兄弟が居たとは書かれてなかった。少なくとも私は知らない。

 やっぱり、似た世界なのかもしれない。


「四男の、もう一人のオズが妹夫婦の養子として旅立った。私たちが両親だとオズワルドは知っているけれど会ったことはないの。精々手紙のやり取りくらい。そして、オズワルドは三歳で従姉妹にあたる国王陛下の娘と婚約したの。……だからオズバルドの婚約者は居ないけれどオズの婚約者は居たの」


 居た。

 過去形であることが引っかかる。


「ネスティーちゃんの予想通りよ。オズと婚約した王女様は、ある時流行り病に罹られてお亡くなりになられたの。だからオズの婚約者が亡くなったことは間違いないし、それはネスティーちゃんではないわね。オズは結局、血は薄いけれど王家の血を引く貴族家の令嬢と再婚約したわね」


 マリーベル様の話を聞いて何となく気付く。

 もし私が物語の通りに、早く死んでしまったらと考えて怯えていることに対して、マリーベル様は否定してくれているのだ、と。

 “オズ”の婚約者は既に亡くなっている。だから私は違うのよ、と。

 私は。

 マリーベル様の優しい心遣いを受け入れることにしました。

お読みいただきまして、ありがとうございました。

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