10-6 公爵領では大歓迎されて驚きです。
「ネスティーちゃん、あなた理解はしても信じられないのね」
私の内心を読み取ったようにマリーベル様は静かに断言する。……その通りです、とは言えずに誤魔化しかけたら。マリーベル様は何も言うな、とばかりに首を振った。
「アズと言ったわね。ネスティーちゃんの専属侍女ね。あなた、私の侍女達にメイクの腕前を磨き上げたいと思わない?」
お兄様の向こうに座るアズが、不意にマリーベル様に声を掛けられて目を白黒させていたけれど、提案された内容には目を輝かせた。
「ぜひ、よろしくお願いします」
「いいわ。改めて場を設けるから。その間、ネスティーちゃんは私が預かる」
「畏まりました」
……なんだか急に私の予定が埋まりましたが、マリーベル様に逆らうことなんて、私もアズも出来ません。取り敢えず、ということで今はお茶を楽しむことに意識を傾けることにしましょう、とマリーベル様の一言でその後は、只管にお茶とお菓子を美味しく頂いた。
その間にユテ侯爵一家のことを聞いたけれど、本当に爵位返上させられていた。元ラテンタール伯爵家のように罪を犯したわけではないから褫爵の憂き目に遭うことは無かったけれど、高位貴族にありながらロイスデン家の“唯一”のことをきちんと理解していなかったことは、王家も問題視した、らしい。
……えっ、そんな大袈裟なこと?
そんなことで爵位返上させられちゃうの?
とは思ったものの、ロイスデン家の唯一のことを改めて知らしめるためにも、ユテ侯爵家は侯爵位を返上させられた、らしい。……それって要するに見せしめってことだよね?
いいのか、そんなことで貴族家を一つ潰す、なんて。でも見せしめは必要だと国王陛下が判断されたのなら、そういうものなのかもしれない。
で。
ユテ一家は全員平民に身分が移行して今は国のどこかでひっそりと平民生活を送っている、と。じゃあせめて多幸を祈っておきましょう。
後は領地に来るまでにのんびりと観光してきたということをオズ様は報告しつつ、合間に、どこどこの領地の特産品を見て目を輝かせるネスティーは可愛い、とか、綺麗な風景を観て感動したネスティーの愛らしさ、とかを挟みながらの報告は、羞恥心塗れになって息も絶え絶えになりました。
「まぁ、そんな可愛いネスティーちゃんをオズだけが独占していた、というのはちょっと許せないけれど、楽しい馬車旅を堪能してくれたようで良かったわ。馬車に長時間乗っていると飽きて退屈になってしまうから、いかに退屈しないよう考えることが馬車旅には必須なのよ」
マリーベル様の熱いお言葉は、毎回苦労しているのだろうことが察せられて、ついクスクスと笑ってしまう。……あ、失礼なことを、と血の気が引く思いをしていた私だけど、マリーベル様は優しい目をして、楽しく思ってくれたのなら良かったわ、と微笑んだ。
……ああそうか。
私が楽しめるようになるまで、待っていてもらったのか、と理解する。緊張していることとか、オズ様の気持ちのこととか、いっぱいいっぱいの私に配慮してくれていた、と分かって、肩の力が抜けた。それを機に改めてロイスデン家の滞在を促されてお世話になることを決めて。今後のことについての話し合いは、先ずは私達が公爵領に慣れてから、ということで後ほどということに。
それからアズと……ヒルデも一緒に……公爵家の侍女さん達とメイク談義に花を咲かせる日程を調整し、その日はオズ様とお兄様は男同士の交流を深めるためにチェスの対戦をする、らしい。そして私はマリーベル様と一日を過ごすことに。内容は内緒、ということで。旅の疲れを癒すことも含めて、三日後に決まる。……三日で体調を整えるためにも、よく休むことにしておきましょう。
お読みいただきまして、ありがとうございました。




