10-5 公爵領では大歓迎されて驚きです。
すみません、予約することを忘れてました。
「唯一、というのは本当に唯一人ということだからその人以外を伴侶に迎えることも恋人になることもない。それがロイスデンに生まれた者の特性。血筋的なもの、かな」
ベルトラン様が静かに説明をする。
……というか、何気に重くはありませんかね。
「ちなみに、ロイスデン公爵領の領民にしても我が家の使用人にしても、唯一を得たロイスデンの人間が、唯一を幸せにするために周囲の幸せにも尽力する性質なのを知っているからね。使用人も領民も君を歓迎することはあっても蔑ろにすることはない」
「もしかして領地に入った途端にあれだけ歓迎されていたのは……」
「ネスティーがオズバルドの唯一だ、と知られているからだね。唯一の相手の敵はロイスデン家の敵。つまり領民達も自分達の生活に影響を与えることになると分かっているからね。君を大切にすることはあっても君を貶めたり蔑ろにしたり、なんてことはしない。そんなことをしたらロイスデン家から制裁を与えられる」
……オズ様だけでなく、ロイスデン家の皆さまが基本的に重めの感情を抱いていましたかぁ。
制裁内容は軽いもので領地追放だそうです。……軽いってなんだっけ。領地追放って中々に重い処分じゃないですか。住むところを奪われるわけですからね。おまけに自分の畑があればそれも奪われるわけです。……やっぱり重いですよね。
領地追放が軽いなら重い処分ってなんでしょう、とは尋ねられませんでした。怖すぎて。聞いたらいけないヤツだと判断して尋ねませんでした。
「あの……お話を聞いてますと、ロイスデン家総出で歓迎してもらえているような気がしますが」
「ネスティーの言っていることは正しいよ。ロイスデン家と公爵領の領民と我が家の使用人は唯一を歓迎しているよ。尤も、私とマリーは君がオズの唯一だから、ではなくてネスティーだから歓迎しているけれどね。君がオズの唯一だと知る前から名を呼ぶことを許したように、ネスティー自身が賢くて生きることを諦めていないから」
ベルトラン様に言われて思い出します。確かに私がオズ様の唯一、だと言う前から何故かベルトラン様とマリーベル様から気に入られていましたね。
「なんとなく、ですけれど。唯一というものについて理解出来たと思っていましたが。予想よりもだいぶ重たい感じだと更に理解しました」
……いや重たい、で済ませていいのかな、コレ。でもオーデ侯爵家の血筋が前世持ちの多い人、というのと同様にロイスデン家の血筋はこうなのだと思う。まぁ性質と思えば受け入れるほか無いけれど。
「まぁそんなわけでね、唯一の相手が幸せだと思える暮らしを送ることがロイスデン家の人間の特徴なのよ。そして、その人に見合った唯一が現れるの。ベルに私のように。オズはネスティーちゃんが見合う相手なのね。身分とか外見とか金銭面とかの釣り合いではなくて性格の面での釣り合いだから、オズがネスティーちゃんを唯一だと言うのなら、オズの足りない部分をネスティーちゃんが補えるし、ネスティーちゃんの足りない部分をオズが補う。唯一はそういう相手のはずなのよ」
つまり、互いに足りない部分を補い合って支え合う関係ということか。そして、私が重たい、と表現したから軽く聞こえるようにマリーベル様は話してくれているけれど、多分、その補い合える関係は唯一と言うように、他の人では補い合うことが出来ない部分がある、ということだと思う。
その足りない部分が明確に分かればいいけれど、多分分からない部分、見えない部分だからこそ、唯一の相手を直感で選ぶ。……そんなところなのかもしれない。
……なるほど。
そういうことなら確かに他の人ではダメだ。それならば唯一が得られないのならいっそのこと独り身を貫く、という考えに至ってもおかしくない。
ーーでも。
オズ様の唯一の相手って本当に私なのかな。
小説は小説。似ていても違う現実の世界。
頭では理解しているけれど、どうにも早く死んでしまった婚約者、という設定から逃れられなくて、いまいちオズ様の唯一の相手が私、ということを信じられない。
理解はしているし、納得もしているけれどね。
お読みいただきまして、ありがとうございました。




