9-5 間話・自分より最愛を貶められる方が〜オズバルド視点
暴力的なシーンあります。
苦手な方は次話までお待ち下さい。
私が鞘に収めたのを見ていたのか、それとも義兄上の存在に触発されたのか。
「あ、あんな見窄らしい貧相な子、オズバルド様に相応しくないわ! 私は間違っておりません!」
……先程までのやり取りを全て無視したような、いやその前からの忠告すら無かったことにして小娘が叫び出す。義兄上の心の広さに免じていたというのにコレか。
「やめなさいっ。陛下も公爵も認めた方だ、と聞いていただろう。それ以上言うのなら、命が無いぞ」
ほぅ。
一応侯爵位を預かっていたことだけはある。
土壇場で弁えたのだから、な。惜しかったな。もう少し早く態度を正していれば爵位は持続出来ただろうに。まぁ命が永らえただけでもマシだと思ってもらおうか。
「ですが、お父様っ。あんな見窄らしい貧相な子がオズバルド様の婚約者だなんてっ」
その一瞬後。
私が手を出す前に義兄上が小娘の頬を引っ叩く。
「い、いたっ……。何するのよ!」
バチン
といい音がしたと同時に、反論する小娘に義兄上が怒りを抑えたような顔で睨み付ける。
「ネスティーを見窄らしいだの貧相だのと繰り返すが、あの子は禁じられたことをいつまでも口にするような物覚えの悪いあなたのような人に見下される子ではない」
……うん。
その通りだし、義兄上がここまで抑えていたのに怒りを噴き出させたのだからもう私が我慢する必要も無さそうだ。
「義兄上。後は私に任せてもらいますね」
そっと声をかければ義兄上が我に返った顔をして私を見てゆっくりと頷いた。
さて。
もう警告の段階は過ぎた。
ユテも小娘のやらかしを庇えないことに気付いたのか頭を掻き毟って抜け毛を増やして禿げるつもりか、と思うくらいに掻き毟った後。
唐突に止めたと思ったらば無表情に陥った。
……なるほど。
もう小娘が暴走していることは無視することに決めたのか。
つまり何をしても無関係を選択する、という事だろう。それならば。
ハァッ。
私はそこまで考えて抜き身を鞘から出すのと同時に大きく息を吐き出して構える。
もうこちらは止めてやるつもりはない、という決意の現れでもある。
一歩踏み出し先ずは小娘の緩やかに結えられた髪を一思いにザックリ切る。敢えて切ったことが分かるような、とても令嬢らしからぬ髪型にしてやる。
小娘の髪が無惨なものとなった一拍後に二人から甲高い悲鳴が上がる。
「いやぁあああ」
小娘が憐れみを誘う声で嘆くがそんなことで私の胸がすくわけがない。
その後隣の母親の髪も同じように切り捨て。
ーーようやく二人が顔色を真っ青にして黙り込んだ。
……と思ったが。
「ひ、ひどい。ひどいです、オズバルドさまぁ」
グスグスと泣きながらそれでもこちらに媚びるように上目遣いをする小娘を視界に入れるのも億劫。
「ユテ、子育てを間違えたな」
「……はい」
「妻は政略結婚か」
「……いえ、親戚からの紹介で」
「その親戚の見る目が無かったな」
「……はい」
私の質問にユテが意気消沈しながら答える。ここまでのことをされても尚、小娘が理解していないことに諦めがついたのだろう。
「さ、先程からなんなのですっ。わ、わた、わたくしは侯爵夫人ですのよっ」
「だからなんだ。そんなもの、公爵家に生まれた私には何の関係もない、と話しているのに母も娘も本当に頭が悪いな。耳の方ではなく頭の方か」
言いながらもわざとらしく耳付近に切先を向けてすっ……と耳たぶを切り付ける。僅かな切り傷だがそれだけに鋭く痛かったのだろう、痛い痛いと泣き喚く妻も無視。血が流れ落ちるさまを見てなのか、泣き喚く母を見てなのか、小娘が「お母様っ」と母の肩を抱こうとしたが母親の方は痛いことに弱いのかその手を振り払い、痛い痛いと泣き喚いて暴れるばかり。
……全くもって高位貴族の座に相応しくない女。このような目に遭った時でも冷静にいられなくては高位貴族の一員などと口にするのも失礼であることに気付くべきだ。
いつ、いかなる時も冷静に状況を把握し思考するように教育されているのが高位貴族たる者、なのだから。
お読みいただきまして、ありがとうございました。




