9-2 間話・自分より最愛を貶められる方が〜オズバルド視点
「そ、そんな、あの、その、そんな女より、私の方が、絶対、オズバルド様に相応しいです」
……温情を与えたというのに、この言い草。
温情をかけられたことすら気付いてないのか。
「……ユテ侯爵がどの部屋に宿泊しているのか宿の者に聞いて連れて行け。その際に警告を無視した上に厳重に抗議をする、と言ったにも関わらず態度を改めないことに私だけでなくロイスデン公爵夫妻も不愉快な思いをする、と伝言しておけ」
この小娘では埒が開かない。
最後の温情だ。ユテ侯爵夫妻に分からせてもらおうか。
……だが、もしもそれでも分からなかった場合は私が分からせてやらないと、だろうな。
あの小娘をユテ侯爵夫妻の元に連れて行った護衛達が戻って来た。ユテ侯爵夫妻に会って説明をしたのか問いかければ。
「それがユテ侯爵は、まだ成人したての娘のことですから……などと」
「なるほど。あくまでもそのような態度を貫く、と言うのだな? 分かった。ならば早急に分からせてやらねばなるまい」
……なるほど。
親が愚かだから小娘が図に載っていたのか。ならば親子共々分からせる必要がある。
ああだが、義兄上が居るのだから義兄上がどんな報復を考えているのか確認をしてからの方がいいはずだ。きっと義兄上だって、ネスティーがあんな風に貶められたことは腹立たしいはずだから。
そう思って尋ねてみたら。
「オズバルド殿に一任するよ。君はネスの婚約者なんだもの」
などと心の広いことを言ってくれた。
義兄上も腹立たしいはずなのに、私を立ててくれるとはなんと心の広いことか。而も結末は知りたいとだけ望む。経緯は知らなくてもいい、とまで言うなんて本当に心が広い。
結末を教えるだけなんて、そんなつまらないことをするわけがない。きちんと義兄上にも立ち会ってもらって報復をしなくてはならない。
義兄上と共にユテ侯爵家が泊まる部屋へと護衛に案内させる。さて、どのように報復しようか、そう考えていると義兄上がそっと告げて来た。
「罪に見合う罰で、それ以上の罰を与える時はネスティーに確認をしてもらっていいかな。あの子は辛いことや苦しいことに悲しいことも耐えて来た。そうして生きて来たから、アズ以外に自分のことで怒ってくれる相手を知らない。私も側に居られなかったし……。だからネスティー自身にも怒ることを覚えさせたい。理不尽に抵抗することを教えたい。だから罪以上の罰を与えるのならネスティーに確認をしてもらいたい。……ダメだろうか」
「ダメだなどと……っ。さすが義兄上。私も同じように思っていました。怒ることや嘆くことをしていいのだ、と。諦めて流されたままでいなくていい、と。だからこそこの件は私が怒る姿を見せることがネスティーにとって良いことだと思っていました。でも確かにネスティーの意思を確認しないで罪以上の罰は与えない方がいいですね」
ネスティーのことを考えての発言はやっぱり嫉妬するけれど、義兄上の言っていることにも一理あると納得する。
ネスティーには大切にされている自覚をしてもらわなくてはならない。
怒らないとか嘆かないとか、それはネスティーを大切にしている私達のことを蔑ろにしている行為なのだと気付いてもらわなくてはならない。
義兄上はそういうことを言いたいのだろう。
だから罪より重い罰を与えるのなら、ネスティーに自覚してもらう必要がある、と。確かにその通りだ。私は義兄上の望みを頭に入れつつ、護衛に視線を向けた。
もちろんその意図を把握している護衛はノックしてから相手側の誰何の声も待たずにドアを開けた。相手が敬うべき人ならば誰何の声に返事をした。相手の都合を確認してから開けてもらうまで待った。
併し。
相手は此方を下に見ているだろう尊敬など抱かない愚か者だ。愚か者に対する敬意など不要。
「な……っ。勝手に押し入って来るとは何者だ!」
久しぶりに見たユテ侯爵に冷たく嗤ってやる。
「久しぶりだ、ユテ侯。そして今日であなたの地位は消え去る」
……ドアが完全に閉まり、義兄上を守るようにしつつドアの鍵も掛けたヘルムが動いたのを視界の端で確認する。
ーーそして、この日事実上、ユテ侯爵はその地位を自らの意思で返上することになった。
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