7-10 「公爵家」の偉大さとその影
「ユテ侯爵令嬢。私に何か用が?」
「折角会えたのですからもう少しお話でも。そうだお茶をご一緒にいかがですか」
此処で鈍い私でも気づいた。
この人、オズ様のことが好きなんだ。
「断る。私は婚約者とかけがえのない時間を過ごすことに全力を尽くしたいから、仕事で関わるなど已むを得ない場合以外は他の女性に割く時間はない」
私が目の前の令嬢の気持ちに気づいたと同時、いやそれより早くオズ様が食い気味に断った……。
えっ、それっていいの? 断って大丈夫なやつですか? 私を優先したいって言ってくれるのは正直なところ嬉しいですけど、派閥間の問題とか事業での何かとか……そういうアレコレは大丈夫な感じですか?
「こ、婚約者⁉︎」
目を丸くして私に視線を向けた令嬢。
ーーアレ? さっき上から下までゆっくり見ておいて私の存在を無かったことにしましたよね? またも私を見ることの意味ってなんですか? さっきの「この女誰よ。っていうか見窄らしい子どもね」みたいな視線たっぷりで私を見ていた上で見なかったことにしたのに? また見る理由って……
あ、あれですか。私が婚約者だと知ってもう一度なんでこんな見窄らしい子どもが婚約者なの? って不満有りまくりの視線を私に浴びせたいわけですか。
でも、そうですよね。
オズ様は社交の場にも出たことの無い私ですら聞いたことがあるロイスデン公爵家の三男ですもん。そのオズ様に見た目だけでも分かり易い不釣り合いな私が婚約者であることは許し難いのかもしれませんね。
見た目どころか爵位も不釣り合いですし、私と婚約していても何のメリットも無いのだし。
……あ、いえでも、私がす、好きだ、とのことでしたから、それがメリット、になるのでしたっけ。
「ええ。国王陛下も認めて下さった婚約者です」
国王陛下も認めて下さった……って、寧ろ王命ですよね、この婚約。それを然りげ無く国王陛下も祝福してくれた婚約、みたいな言い方に変えましたよね⁉︎
……い、いいのかしらそれ。
「へ、陛下、が」
さすがに陛下と言われてしまうと黙るしかなかったのかな。顔色が青褪めて口を閉じてる。
オズ様はこの隙に、とばかりにサッと再度部屋へ戻ろうと足を進めた。今度は止められない。
彼女から十分離れたなぁ……と思ったと同時にオズ様が私の両頬をそっと包んで向かい合った。……と思ったら、頭を下げた。なんで?
「ネスティー、嫌な気持ちをさせてごめんね」
「ええと、嫌な気持ちはしてないです」
シュンとした表情で謝って来るオズ様に、慌てて否定する。嫌な気持ちなんて何もしてない。
「嫌な気持ちはしてない……?」
私の否定にオズ様が顔を上げてジッと私の顔を覗き込んできたと思ったら少しだけ眉間に皺を作り出した。間近だからこそ分かる程度の皺だけど、不機嫌になった、ということ、かな……?
「え、ええと、はい。オズ様がモテるのは当たり前のことだろうと思ったから別に」
「それって嫉妬もしてないってこと?」
オズ様ならモテるのも当たり前だろうし、その隣に自分以外の女が居れば敵意を表すのも分かるし。そう思って気にしてない、と説明しているのに何故かオズ様が更に皺を増やしている。……あれ? 何か対応を間違えてる?
というか、嫉妬もしてないと言われましても。
「オズ様は素敵な方なので、好きになる女性は一人や二人じゃないと思っています。何人もそんな女性と会ってモヤモヤしていたら私が疲れてしまう。疲れてオズ様の側に居ることを止める判断をするよりも、疲れないように、まぁ仕方ないよねって考える方が私の気持ちとしてはかなり気楽になります。それに、オズ様を見て来て思うに、簡単に靡くとは思えません。オズ様が話しても良いと思う基準があると思うんです。あの女性はその基準に満たないと思いました。それなら気にする必要もないのかなって思えば別に。私が見て判断したオズ様を信じます」
伯爵家から出て、オズ様と成り行きに近い状態で一緒に暮らしてきました。期間は短くても濃い付き合いになりつつあるので何となくオズ様の性格も分かってきました。
そこから判断するにしても、あの令嬢に対するオズ様の態度を見て判断しても、それなりの対応をしているってことじゃないのかな、と。
お読みいただきまして、ありがとうございました。