7-9 「公爵家」の偉大さとその影
夕飯のお肉ですが。柔らかくて美味しかった。
アレです、よく言う噛む前に溶けてしまいそうな程柔らかいっていう表現そのもの。さすが、前世の物がちょいちょい再現されている世界です。肉の柔らかさも追求したのか、これほど柔らかくなっているとは……。
前世の記憶があった人様々です。……あれか? もしかしてオーデ侯爵家出身の誰か、とか……?
いえ、あまり深く考えないようにしましょう。お肉が美味しかった。それでいいんです。デザートも堪能します。果物のコンポートでした。こちらも美味しかった。
食事中翌日の予定を話し合い、私の体調を見て大丈夫そうなら予定通り出立。悪そうなら明後日出立をする、とのこと。
……アズ以外でこんなにも私を優先してくれるというか、私のことを考えてくれる人って亡きお母様と離れて暮らしていたお兄様以外には居なかったので、なんだかくすぐったい気持ちに駆られる。
「オズ様」
「うん」
「あの、優先してくれてありがとうございます」
「当たり前のことだよ。私はネスティーが好きだし婚約者だし」
私のことを考えてくれるオズ様にお礼を言えば、そんな風に返して口元を緩めて微笑む。差し出された手に自然と手を乗せてエスコートされる。
恥ずかしくて嬉しい気持ちに駆られたーーそのときだった。
「あら? ロイスデン公爵子息様? オズバルド様かしら」
澄んだ声の若い女性の声。
振り返るとオズ様と同じくらいかちょっと年上に見える……つまりまだ結婚していないだろう年齢に見える令嬢がいた。
アズが言っていた“令嬢”らしい“令嬢”ってこういう人なのだろうと見ただけで理解してしまう。
「ああ、ユテ侯爵家の。お久しぶりですね。このようなところでお会いするとは思いませんでした。ご家族で旅行か何かでしょうか。ごゆっくり」
気品溢れ自分に似合うドレスが装飾品が何かを理解しているのだろうことが傍目に分かる。
そんなオズ様に声をかけて来た令嬢は、髪の毛も艶々で肌も肌荒れなんて生まれてこの方経験したことが無いとでも言うような潤いたっぷりで、其処彼処に自信が溢れているような姿をしている。
そんな令嬢に対峙したオズ様は、やはり公爵家の子息だけあってにこやかに令嬢に挨拶をした。
ーーと思ったら、流れるように暇を告げて私の肩に手を当てて部屋へ戻るような仕草を見せる。
あまりにも自然だったので戸惑う間もなく足を動かし出したら慌てたような声が背後から聞こえてきた。
「お、お待ちになって」
オズ様は足を止めることも振り返ることもなく階段(私たちの客室はレストランより上にある)へ進んでいく。もちろん私もそれに合わせて足を進めるのだけど。
「オズバルド様」
先程の引き止める声は聞こえるくらいの大きさだったけれど今度はそれよりちょっと大きくて、ギリギリ淑女として許される範囲内での大きさに思えるけれど。
オズ様は名前を呼ばれてさすがに無視をするわけにいかなかったのか、舌打ち(舌打ちをするような方には思えなかったのですが)……してから振り返りました。舌打ちするんですね、オズ様も。
顔合わせをした頃は、真面目そうで律儀そうで優しそうで堅苦しそうで舌打ちなんてしないような方に見えたのですが。
どちらかと言えば舌打ちするような人に真面目に指摘するような方だと思っていました。
……まぁ勝手に決めつけてはいけませんよね。
お読みいただきまして、ありがとうございました。