7-8 「公爵家」の偉大さとその影
そんなこんなでひと息入れた後。宿の夕食の時間だ、とオズ様がお迎えに来てそちらへ向かう。
平民も使う宿だと、前世で言うところの大衆食堂的な食事処なのだけれど高位貴族向け宿なので前世で言うところのレストランが併設されている。アレだ、老舗のホテルにあるレストランみたいな感じ。そんなわけで格式高いドレスコードとはいかないけれど、そこそこの格好をしていないと入店お断りになってしまう。
例えて言うならデイドレスやイブニングドレスは着ていなくてもいいけれど、アズやヒルデが侍女だからと言って侍女のお仕着せ服でレストランには入れないってこと。
なので、アズやヒルデにロイスデン家の使用人さん達もお仕着せではなくちょっと質の良いワンピースを着ている。侍従の方も燕尾服ではなくスーツ。前世の感覚だとスーツより燕尾服の方が結婚式の花婿イメージが強すぎるからか豪華な気がするんだけど、こちらでは謂わば執事服。要は侍女のお仕着せみたいなものだからシングルスーツやダブルスーツの方が上等なわけだよね。
じゃあ護衛さん達の服装は……というと、騎士服はオッケーらしい。
と言ってももちろんフル装備……フルフェイスの甲冑姿がオッケーとかじゃなくて鎖帷子のチュニック姿だけど。いや確かにフルフェイスの甲冑姿でホテルのレストランは目立つよね。浮きそうだし護衛さん達も食べ難いだろうし。
尚、他の家の護衛を知らないから比べられないけれど、ロイスデン公爵家の護衛さん達は戦争に行くわけじゃないならフルフェイス……つまり兜は付けないで顔は出してる。
アレだ。身体にプロテクター付けて顔はそのままみたいな。顔が出ているってことは、自分の顔を守れるだけの自信がある、つまりそれだけ強いってことを示すらしい。それでも戦争になったらさすがに付けるらしいのだけど。
野盗とか山賊程度ならフルフェイスなんて無くても護衛対象を守り切れる自信があるくらい、強いみたい。……兜が無いことにそんな意味があるなんて知らなかった。
と思っていたら、あくまでもロイスデン公爵家の護衛さん達だけに通じる話みたいだから、所謂内輪話ってやつみたい。成る程。
そんなわけで話は戻るけれど護衛さん達は鎖帷子のチュニック程度なら砕けた服装で来店はオッケーらしい。
護衛だから対象を守れないと意味を為さないから、とその辺は宿側も暗黙の了解みたいなわけで、治安の良さで有名だった日本人の感覚からすると、何時如何なる時も護衛対象を守る姿勢を貫く護衛さん達って大変なお仕事だし、それが暗黙の了解であるということは、それだけこちらの世界というか国は治安面に不安があるのだろうな、とまざまざと思い知った。
「ネスティー、何が食べたい?」
みんな、これが当たり前の世界、なんだな。オズ様も守られるのが当然だと思っているように平然としている。つくづく怖いな、と思う。
ーー守られるのが当然という事は、それだけ危ない目に遭う可能性が高いことを分かっているということで。いつでも命を狙われている、或いは命じゃなくても金品が狙われている生活をしてきているってこと。
それが怖いと思う。
いつだってオズ様は狙われることが前提の世界というか環境で育ってきたということ。
ロイスデン公爵家の偉大さを、泊まる宿で実感していたけれど、今はその影の濃さを実感している。
そこまで考えてから私は、自分もそんな世界に身を置いていたことを思い出した。……全くそんな実感は無かったけれど。
でもある意味では命は脅かされていたわけだし、なんとも言えない。
ツラツラと考えて……そこで考えることを一旦放棄した。
今は兎に角、夕ご飯が急ぎの案件なのだから。
「一番少ない量のお肉がいいです」
私が応えるとオズ様は分かった、と頷く。所謂コース料理だけど、前世に近い世界観だから流通もそこそこ活発ではある。まぁところどころ前世と比べると緩い感じはあるけど。
取り敢えず新鮮な魚も肉も食べられるから、魚料理のコースでも良かったけれど、私は肉より魚を食べたい傾向にあるようで、もう少しお肉も食べてください、とアズから口酸っぱく言われているので意識してお肉のコース料理にしてもらった。
お読みいただきまして、ありがとうございました。




