7-6 「公爵家」の偉大さとその影
なんだかアズが分かっていて私は分からないことに拗ねてしまう。でも、ロイスデン公爵領に到着すれば分かる、というのなら焦っても拗ねても仕方ない。取り敢えず向かっているわけだし。
ドアをノックする音が聞こえてヒルデが受け応えをすると、オズ様がいらしたようだ。私が大丈夫なのか確認したいらしい。入ってもらうようにお願いすれば、大丈夫ならそれでいい、とちょっと顔を見るだけだ、と私の顔を見てまた夕食に、と部屋に戻られた。
「アズ」
「はい」
「ちょっと相談……いや、報告? を」
「畏まりました」
当然この宿も寝室と簡易的な居住空間というか、あれだ、前世のスイートルームと同じ造りになっていて、さすが公爵家が泊まるところ。お金が掛かってるなぁ。なんて今更のことを思いつつ、寝室で荷解きをヒルデにお任せして、アズはソファーに座る私にお茶を淹れてくれる。
尚、お茶は到着した際に宿からいつでも飲めるように簡易ポットと茶器セットを貸し出されている。やっぱり前世の宿並だね。
そういえば、子どもの頃はスイートルームを甘い部屋(sweet room)だ、と誤解釈して、甘いお菓子が置いてある部屋だと思っていたっけ……。まさか続き部屋(suite room)という意味だとは思わなかったよねぇ。
……なんて現実逃避をしているのは、アズに話すのが照れくさいからで。でもアズはそんな私に何も言わず、ソファーの後ろで私の話とやらを待っていてくれる。待たせるのも申し訳なくて。
「アズ」
呼びかけたら声が小さかった……!
「なんでしょうか、お嬢様」
でも、ちゃんと聞き取れたみたい。
「その、ね」
「はい」
「お、オズ様から、好きだって言われたの」
「ああ、意外と早く仰ったんですねぇ」
私が恥ずかしさを堪えて報告すれば、アズがあっさりとそんなことを言う。
えっ、意外と早くって……
「アズは、オズ様の気持ち、知ってた、の……」
「いや、あれだけアピールされてて気づかないお嬢様の方が凄いですが」
……えっ。アピールされてたの⁉︎
「し、知らなかった」
「まぁお嬢様は、あのクズ達から否定されて生きていらっしゃったから、情緒面が育たなくても仕方ない環境でございましたからね……」
私の鈍さは伯爵一家や使用人達に蔑ろにされたことで好意に気づかなかったのだろう、とアズに解釈されているみたいだ。……ああうん、前世の記憶を取り戻す前の私なら、兎に角怯えていたから好意を示されても怖いと思っていたよね。前世の記憶を取り戻しても、いきなり好意を示されたら警戒していたよね。
……そういう意味ではオズ様との関係が王命から始まったことは正解だったのかもしれない。警戒しようにも王命だから交流しないとならなかったし、怖いと怯えても王命だから拒否出来なかった事だしね。
……ん? アレ?
「アズ、それって……情緒面が育たないって、もしやお子さまって思われてる?」
情緒面が育ってない。
そして鈍い。
という事は、アズは私が恋愛方面に疎いお子ちゃまだと思っているってことでは⁉︎
「……あ、ええと、まぁ、お嬢様は十二歳ですし。これからです、これから!」
視線を逸らされ誤魔化された。……つまり完全にそう思っているってことじゃない!
いや、確かにオズ様の気持ちに気付いてなかったよ? 気づいてなかったからお子ちゃま扱いされても仕方ないかもしれないけどさぁ。
でも酷くない? 十二歳だって言うなら鈍くても許されると思う……いや、そうでもない、か?
前世でも女の子ってそのくらいの年齢で初恋済ませてる子はいっぱい居たな? つまり、やっぱり鈍いお子ちゃまということ……?
「あのー、もしかして、他の貴族の女の子達ってもっと大人っぽかったり……する?」
考えてみれば他の子との交流が一切無い私。
アズの物言いからしても、私は結構そちら方面に疎いってことなのでしょうか……。
お読みいただきまして、ありがとうございました。




