7-3 「公爵家」の偉大さとその影
「それで、さっきの利益の話に戻るけれど」
私が泣き止んで落ち着いたのを見計らうようにオズバルド様が続ける。
「は、はい」
そういえば何の利益もないって話をしていた。
「私はネスティーが好きだから一生君を伴侶に出来るという利益がある」
それって利益というか、当たり前と言えば当たり前というか……。
「そしてロイスデン公爵家は代々恋愛結婚だから政略結婚を結ばなくて済むのも利益」
「そう、なのですか」
「そう。だから兄上達も婚約者が居ない。公爵家だから政略で結ぶような縁が必要ないし。金に困ってもいないし。父上がやり手だということもあるけれど。王家との縁は母上が嫁いで来ているから必要ないし。王家の縁者が他国と縁を繋いでいるから我が家は改めて縁を繋ぐ必要もないし。だから別に私が誰と結婚しようと平民になろうと問題ない」
滔々と立板に水が如く説明されてしまうと納得してしまう。確かにロイスデン家は公爵家だから政略結婚は必要無いし、元王女が当主夫人だし。他国との縁組の話が無ければ他国と縁付く必要もない。
オズバルド様が平民になっても問題は無いのだろうけれど、でも何十人もの使用人に傅かれて世話をされて暮らしてきた人が、誰も頼らずに仕事を探して働いて家事をこなして……暮らせるもの?
「平民になっても仕事はある。というか、さすがに父上が仕事もしてないのに結婚なんて許すとは言わないし」
ああ、公爵様ならそんな感じする。食い扶持確保してから結婚だろ、というタイプだ。息子相手にも甘えたことを言うな、というタイプな気がする。
「公爵様なら仕事を確保するのが先、とか言いそうですね」
「うん。父上は言う。あと、きちんと父上の機嫌を損ねないように公爵様呼びを止めないと、ネスティーは父上と母上に監禁されるよ」
「えっ、オズバルド様、今、恐ろしいことを言いませんでしたか?」
き、聞き間違いだよね?
「オズね」
「お、オズ、様」
「うん。父上と母上に監禁されるよって言った」
オズバルド様にも愛称呼びを訂正されてもう一度尋ねると聞き間違いでもなんでもない答えが返ってきた……。
「かんきん……」
「ネスティーは父上にも母上にも気に入られたでしょう。私としては私以上に親と仲良しなことはちょっと思うところがあるけれど」
「思うところ」
それってあれ? 娘でもないのに仲良くするな、とか?
「私のネスティーだからね。父上と母上に盗られたくないでしょう」
……なんだか私の予想とは違った上に、オズバルド様の発想がよく分からない。盗られるってなに。
「ええと……ベルトラン様とマリーベル様の機嫌を損ねると監禁って……冗談ですよね?」
オズバルド様の考えはさておいて。私は気になっていたことを尋ねる。
「冗談? いや、父上と母上なら簡単だけど」
冗談じゃなかった! いや確かに公爵様ご夫妻なら私一人を監禁するなんて簡単でしょうけどっ。難易度なんて聞いてないっ。
「いえ、あのー、なんで監禁される方向なのか知りたいです」
「だから、ネスティーが気に入られたから」
気に入られたら監禁生活とか意味が分かりませんけれど? オズバルド様、もう少し私の残念な頭にも分かり易いように説明をお願いします。
お読みいただきまして、ありがとうございました。