7-2 「公爵家」の偉大さとその影
「利益? あるよ。私はネスティーが好きだから」
サラリと告げられた言葉に目を丸くしてしまう。えっ、今、す、す、好き、とか、言いました?
内心が挙動不審です、私。
いや、もう訳わからない。
「す、すき、とは」
「好き。恋する感情というやつだ」
「えっ、なんでですか!」
思わず突っ込んでしまう。でも、そう思う。なんで、こ、恋とか、言い出した?
「なんで? ネスティーに初めて会った時から甘やかしたいとか美味しい物を食べさせたいとか考えていたから、最初からじゃないかな」
「ふぁ⁉︎」
また変な声を上げてしまう。
さささ最初から? 私を好き? いや、なんで?
ガリガリを通り越したような体型だし、髪はボサボサだろうし、いやアズが整えてくれていたけど、でも異母妹とは比べものにならないような髪だっただろうし、ドレスも古い型だし抑々サイズ合ってないようなものだし……いや、ほんとなんでそんな私を好きだと思えた?
「あれですか、同情を恋と間違えて」
「うーん……。確かに同情はしたけど。同情するだけなら甘やかしたいとか美味しい物を食べさせたいとか、私が着飾らせたいとか、そんなことまで考えないと思うよ?」
オズバルド様の気持ちを同情と恋を間違えているのでは、と判断した私。だけど冷静に否定の言葉が返ってくる。その反論に、うっ……と口籠ってしまう。
そ、そう、かも、しれない……?
「で、でも、あんな、今よりももっと見窄らしい格好をした私の何が良かったのか」
「見窄らしい、なんて自分で言うんじゃない。君は好きでそうしていたわけじゃない。好きでそうしていたというなら、自分を貶める発言をするのも納得出来る。全て自己責任だから。けれど、そうじゃないのだから自分を卑屈に思うな。あの日、あの時のネスティーの精一杯で着飾り、私の前に現れて精一杯私を持て成そうとした。それだけだ」
なんだろう。
また涙がポロリと零れ落ちる。
この涙は……ああそうか。私になる前の“わたし”の涙。前世の記憶が戻る前、ただ虐げられていただけの“わたし”に対する敬意を払って、発言してくれたんだ。
「あり、がとう、ございます」
「うん。ネスティーはもっともっと胸を張っていいんだよ」
今度は頭を撫でられるだけじゃなくて膝の上の私の背中を摩ってくれる。私より大きな……でもまだまだ成長途中の手は、大貴族の子息様らしく肌が白く滑らかだけど。なんだかとても安心した。
多分暖かくて“わたし”の境遇に心を寄せてくれた人だから。
寂しくて辛くて苦しい“わたし”に同情するだけじゃなくてそんな境遇の“わたし”の精一杯の虚勢を汲み取って褒めてくれた人、だから。
だから私はその手を受け入れられた。
正直なところ、今はまだ生活の基盤を整えたり体調を整えてもう少し健康的になったりすることの方が大事で、恋愛に心を割く余裕なんてないけど。
オズバルド様なら、ゆっくり私の気持ちが整うまで待ってくれる、と思えるから。急いで返事をしなくても大丈夫だと思っている。
……あの伯爵家では体調を崩す事すら許されない環境だったから、安心とか疲労とか全部が一気に押し寄せるように今回倒れたのも甘えてもいい、と自分の身体が理解しているんじゃないかな、と思っている。
お読みいただきまして、ありがとうございました。