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6-1 間話・唯一が見つかったロイスデンは〜オズバルド視点

 私の話を聞いたアズとヒルデは部屋で休むネスティーの元に戻り様子を見る、と下がろうとしたので私と交代するように命じておく。

 アズとヒルデが黙って頭を下げたのを見てから次に義兄となるガスティール殿を見た。


「ガスティール殿。申し上げたように、私はネスティーを唯一と定めた。よろしいか」


 許諾を得るような尋ね方であって実は宣言だ、とガスティール殿は気付かれているようで、躊躇ってから確認したいことがある、と言う。


「なにか」


「先ずはネスティーの身の安全」


「言わずもがな。ロイスデン公爵家と領民が必ず。無論私も。領民達は唯一を見つけたロイスデンの者がどれほど強く領民達に益をもたらすかよく知っている。だから唯一を害されることのないように守るよう代々言い聞かされている。もしも領民の中に裏切り者が出たらその者と家族は我らロイスデンが手を下さずとも領民達から制裁を与えられるほど」


 ガスティール殿がそこまで……と唖然とした表情で呟くが、ロイスデン公爵領に生まれついた領民達は親兄弟親戚から言葉を覚えて喋るのと同じようにロイスデン家の者の唯一について教えられる。

 ロイスデン家に生まれたら、必ず自分に見合った伴侶に巡り合う。それがいつなのか、ということはさすがに分からないが。アル兄上に婚約者が居なくても焦っていないのは必ず唯一に巡り合うと確信しているから。それもロイスデン公爵家次期当主に相応しい相手としての唯一。

 唯一に巡り合ったのが公爵になってから、という人も過去には居たらしいし、本人に結婚願望がまるでなく、四十年以上独り身だったのに、ふと寂しさを覚えて結婚願望が沸いた途端に唯一に巡り合ったという曾祖父の弟の話も聞いたことがある。

 ロイスデン家の人間は生まれた時から唯一と巡り合うために生きていると言ってもいいようなもの。全く出会わずに生涯を終えた人も居るがその人は若いうちから神へ身を捧げたいと言って修道女になられた女性だった。

 家族から大反対されたが家出してそのまま教会に身を置き、生涯を終えている。だから彼女の唯一は神だったのかもしれない、とロイスデン家では言い伝えられている。

 つまりまぁ、それほどにロイスデン家の者は唯一の考えが当たり前なのだ。

 ……ただ、私は両親の仲の良さを見ていても、兄上達にお相手が居なかったからか、唯一の存在の話をあまり信じていなかった。

 実際、ネスティーに会った時も唯一だとは思わなかった。

 私がネスティーを唯一だと実感したのは、ネスティーが父上の企みで攫われてしまってからだ。あの出来事と目の前のガスティール殿がネスティーに触れるのを見て、ネスティーが唯一だと理解出来た。


「では、ネスティーに自由は」


「与えますよ、もちろん。好きなことをさせたいと思っています。但し私の手が伸びる範囲で」


 父上と同じだ。

 一見母上の好きなようにやらせているように見せておいて実際には父上の手が届かないものは却下している。

 ネスティーもそうなる。

 でもネスティーが窮屈だと思わないよう、私の手を伸ばせばいいとは思うが。


「それは籠の鳥だと?」


「ガスティール殿。囲われている鳥が囲われているとは思わないほどに大きく広々とした籠なら、籠の鳥とは言わないとは思いませんか」


「それは、ネスティーが窮屈だと思わない程度に自由を与えられる、と」


「もちろんです。ただでさえ実の父から籠の鳥どころか羽根を捥がれ足に鎖を付けられ更に虐げられてきた彼女です。私までそのようなことをすればネスティーは心を壊しかねないでしょう。彼女には、私に囚われているとは感じられない程の自由を与えます」


 でも、私の手から飛び出すようなことはさせないけれどね。ロイスデン家の者は慈愛だの優しいだのと周囲から言われているけれど、その行動も心遣いもかける言葉も唯一のためでしかない。

 現れる唯一がどんな存在か分からないから、常に()()()()()()()()()()()()接しているに過ぎない。


「思うのですが」


 ガスティール殿は私の言葉に頬を痙攣らせてから何かを考え込み、そして思い切ったように真実を当ててきた。


「もしかしてロイスデン家の方々は、誰に対しても同じ態度を取る……つまり、誰に対しても肩入れしないで贔屓もしない、のでは?」


 何となく父上が、甘い考えで貴族には向かない伯爵家の嫡男だったガスティール殿を気に入った理由に気付いた。

 母上に出会った以降の父上はアズが言ったように公爵家当主に相応しい人だ。

 ……だから不要だと判じれば即刻切り捨てる容赦無い性格。

 そんな父上がネスティーの兄だから、なんて甘い理由だけで彼を生かしている理由が分からなかったのだけど。

お読みいただきまして、ありがとうございました。

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