7-2 味方が分かるまでは
「じゃあ私が反撃したことを分かってくれた?」
「分かりました。でもそれだけではないですね?」
アズが納得してくれたからこの話は終わりだと思ったのに……終わっていなかった、らしい。
「まだ何か?」
「夢の話です。他に何か見たのでしょう?」
アズの鋭い質問が続きますね。でも全てを話すとは言っていません。嘘は吐かないってだけで。
「何か、とは?」
「ああやはり他にも有りますね? お嬢様は嘘を吐く時や隠し事がある時は、必ず目線を左側にしながら左手で頬を触るんです」
ヒィッ。アズってば私の無意識な行動で嘘や隠し事を暴いてたの⁉︎ いや、でもそうか! だから怪我をしてないって言っても嘘だと決めつけて怪我を見つけられていたのね⁉︎
「アズってば……すごい」
これは観念しておくしかないですね……。とはいえ、やっぱり前世の記憶については、アズに話せる自信が無いので。
「他に何があるのですか?」
「他というか。私が夢で見たのは、オズバルド様が私の婚約者だったこと。成人しないうちに死んでしまうこと。オズバルド様が悲しんでくれたこと。オズバルド様は三男だから婿入りするか公爵家の持つ従属爵位を得ればいいのに、どちらも選ばないで平民に身分を移して冒険者になる、ということだけよ。他は知らないわ」
小説の話をざっくりと夢として語れば、アズは頷きながら真剣に聞いてくれます。……前世の記憶だと言えなくてごめんね。アズを信じているからって軽々しく言えない。アズが味方でもアズが報告するのが宰相補佐様でもお母様の方のお祖父様でも、私の味方だと分からないから。誰が味方か分かるまでは、迂闊なことは言えない。
「ロイスデン公爵子息様が冒険者に? それがお嬢様の夢だった、と?」
アズが首を傾げる。元伯爵令嬢のアズでさえ、平民に身分を移していた時は苦労した、という。そのアズよりも更に高位貴族で王家とも親戚関係にあたる、貴族の最高位にあたる子息が平民に身分を移すことが信じられないのだと思う。
ロイスデン公爵家との繋がりが欲しい貴族など沢山居るし、私の家・ラテンタールも王命だけどこの婚約自体は旨味しかないはず。だから三男でもオズバルド様が婿入りに苦労することは無い。仮令私が死んでしまったとしても、婿入り先は選び放題だ、とアズは口には出さないけど思っているのだろう。私もそう思う。
何だったら、従属爵位もある家なのだから、それをオズバルド様に授けたっていいはず。確かあの家は子爵位と男爵位を持っていたんじゃなかったかな。この辺は小説の知識ではなく、アズから教えてもらった貴族家の知識だから間違いない。オズバルド様のお兄様にあたる嫡男様は現在、ロイスデン公爵家が所有する子爵位を授けられているけれど、何れ公爵になればその子爵位が空くし。嫡男様がご結婚されて後々子爵位をご子息に授けることにしてオズバルド様に授けないとしても、男爵位があるものね。
あれ? でも、その男爵位をもう一人のお兄様である次男様に授けるとなると、従属爵位が無くなる……? ああ、そういうことになってしまうわね。でも次男様が何処かに婿入りすれば男爵位は空くし、子爵位も男爵位も無かったとしてもやっぱり婿入り先はあるはずだから、結局アズが不思議に思っても仕方ないのよね。
「そうよ。オズバルド様は婿入りもせず、従属爵位も貰わずに平民に身分を移して冒険者になった。……それが私の見た夢の全て」
という事にしよう。
だって、あの小説、オズバルド様が主人公で、私なんて名前すら出てこない婚約者だし。というか、回想シーンも一行分くらいしかなかったし。だからこれ以上アズに質問されても私のこともラテンタールの家のことも、さっぱり分からないから答えられないのよね。
お読み頂きまして、ありがとうございました。