5-1 間話・お嬢様は逃げられない〜アズ視点
お嬢様が「頭が痛い」と呟くように訴えられてそのまま眠りにつかれてしまった。母と二人がかりで何とかお嬢様を寝具の中に押しやり上から掛布をかけてからオズバルド様と兄君・ガスティール様にご報告をした。ガスティール様とオズバルド様とヘルムが一室。ガスティール様は公爵子息と一緒の部屋なんて恐れ多い、と辞退したようだけど警備の都合上と言われて再度声を掛けられると断りきれなかったようだ。そんなけで三人一緒。
「えっ、ね、ネスティーが?」
ガスティール様は顔色を真っ青にして慌てふためく。対してオズバルド様は冷静にヘルムに指示を出した。
「先ず、父上に出立が遅くなるから到着が遅くなる旨を連絡。それが終わり次第、宿に二泊宿泊費することを伝えて引き続きの部屋を確保と支払いを終えてくれ。アズはヒルデと共に休んでいるように」
それと義兄上は一度ネスティーの様子を見た後で私と交代しましょう、とうまくガスティール様を誘導する。併し私たちは誘導されない。
「ち、ちょっとお待ち下さいませ、私と母が休んでしまうとお嬢様のお世話が! それに私共はお嬢様と同じ部屋でございます!」
淡々と命じながら私と母を追い出そうとしたオズバルド様に慌てて抗議する。何故、お嬢様付きの私を追い出そうとするのかさっぱり理解出来ない。
「ネスティーの世話は私が請け負う。君達の部屋は別に取る」
問題ないだろう、とでも言いそうなオズバルド様だが、何を言っていらっしゃるのか!
「お嬢様とオズバルド様を同じ部屋で一晩などっ」
必死に言い募る私がオズバルド様と目を合わせた途端に顔も身体も硬直した。
ロイスデン公爵様そっくりの秀麗なお顔立ちに普段はどちらかといえば無表情ながらも、その目が周囲を気遣うような温かみのあるものなので近寄り難いというような雰囲気はまるで無かったのに。
今のオズバルド様の目に温もりなど一切なく、秀麗な無表情に目の温度が消えてしまうとこんなにも恐ろしいお方になるのか、と身震いする。
同時に感じる他者を抑え込むような威圧感と、それでも合わせてしまった目を離せない他者を惹きつける畏怖ーー。
そこまで身を持って知ることで、ハッとした。
「もしやオズバルド様」
まだ伯爵令嬢として貴族の世界に身を置いていた頃。没落するまでは茶会に顔を出すなどして社交にも積極的だった私の耳に届いた事があるロイスデン公爵家のある特徴ーー
背後の母からも息を呑むような雰囲気を感じ取りチラリと母を振り返れば、同じ考えに行き着いたのか、私に強く頷きを返す。
母もその特徴を思い出したかのように、ジッとオズバルド様を見る。
「賢いな。我が家の特性を知っているか」
オズバルド様は、ふぅん、と畏怖と威圧感を消して私と母を観察するような視線で一瞥してから、一つ頷いた。
「察した通りだ。ネスティーは私の唯一。絶対に、離さん」
ーーああ、やはり。
お嬢様はオズバルド様に、ロイスデン公爵家に捕らわれてしまった。
もう、お嬢様は逃げられないと悟った。
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