4-3 よく分からない距離感
「ふむ、仕方ない。ではやはり私が飲ませて……」
「いえ! 大丈夫です! 自分で飲めます!」
オズバルド様に飲まされているのはゴクゴク飲めないのもあるけど、恥ずかし過ぎる!
両手でコップを持って水を溢さないように慎重に飲み切ってから思い出しました。……結局私、オズバルド様を背凭れのように寄り掛かりながら飲み終えましたね……。
抑々この体勢が恥ずかしいから離れて欲しいってお願いしたわけですよね。でもそれを華麗にスルーされた上に飲ませようという話題にすり替わってしまってこのままの体勢で飲み終えました……。
なんでしょうか、この敗北感。
でも仕方ないじゃないですか。
オズバルド様の顔の良さに意見をビシッと言えなかったんですよ! 公爵様とそっくりの見目麗しいお顔が隣にあってドキドキしないわけないじゃないですか! 私、公爵様のお顔は好みだし美術品みたいな感覚ではありますけど、なんていうか公爵様は遠い人って感じがしてましたが、オズバルド様はとても近い人に思えるんですよ……。だから公爵様と違って美術品には思えなくて。思えないからこそ隣に好ましいお顔があったらドキドキしてしまっても仕方ないじゃないですか!
自分に対して逆ギレしてますが、だって仕方ないんです……。オズバルド様のお顔と私を上回るスルースキルとなんか分からない圧を感じて負けたんですから……。
「もう、いいのか?」
相変わらずの至近距離で囁かれるボイスに撃沈しつつ頷く。
「大丈夫です。ありがとうございます」
そう伝えてからようやく気づいた。……アズが全く戻って来ないことに。
窓の外の日差し具合から察するに朝と呼ばれる時間帯は疾うに過ぎている様子……。
「あの、もしかして、出立時間を過ぎていますか」
「今日は出立を取り止めたよ。ネスティーの体調が優先だからね。宿でゆっくりするのもいいし、回復したのなら宿の裏手に小さな池があるからそこまで散歩して体力を付けておくのもいいかもしれないけれど、どうする?」
出立を取り止めたのか。申し訳ないことをしてしまった……。というか、オズバルド様、随分と気安い口調に変わってますが、どんな心境の変化でしょうか。
いやでもこれを尋ねたらなんだかマズイと本能が訴えていますからこのことはスルーしましょう。そうしましょう。
「取り敢えず、アズとお兄様と話したいです」
そうです。全く戻って来ないアズとヒルデ。そしてお兄様のお顔が見たいです。
「分かった。お腹は空いているか?」
この質問に応える前にお腹がクウッと鳴りましたね。オズバルド様がクスリと笑ってから
「あまり重たい物は食べない方がいいだろうからスープでももらってこよう。あと義兄殿とアズ殿とヒルデ殿にも声をかけてくるよ」
と爽やかに部屋を出て行きました。
重たい物が食べられない、という判断をしてくれて有り難いですが、あれですよね、私がお腹壊した時のことを思い出しての発言ですよね。
今になってみると戻したところとか見られているの、恥ずかしいんですけど、今さらですよね。
そんなことを考えている間に、スープと共にアズとヒルデとお兄様が来ました。お兄様は私の体調を案じてくれていたのか、私が起き上がっているのを見てホッとした表情を浮かべました。
お読みいただきまして、ありがとうございました。