4-1 よく分からない距離感
太陽の光が顔に当たる感覚に眩しさを覚えて目が覚めた。
パチリパチリと目を瞬かせる。
久しぶりに見たお母様の夢。笑顔と声。
そのためか、頭痛が治っている。多分よく眠れたということだろう。
ゆっくりと頭を左右に振って……驚いた。
「目が覚めたか?」
「オズバルド様?」
太陽の光が差し込む窓とは反対に顔を振ったらオズバルド様が私のベッド脇に居たから。
ホッとした表情のオズバルド様を見るに頭痛がするって言いながらベッドに倒れ込んだことをアズから報告されて心配して下さったのだろう。
伯爵家に居た頃は、婚約者と言ってもあまり顔は合わせて来なかった。その理由はアズからもヘルムからも聞かされていて、まぁそうだろうな、とは思っていたから別に何とも思っていなかった。
だけど。
オズバルド様はそのことがとても気に掛かっていたみたいで。
あの屋敷を出て宰相様の領地である侯爵領で生活を送っている時から良く顔を合わせるようになったし会話をするようになっていた。
多分、食べ過ぎてぶっ倒れたことがあったからそれの所為もあるのかもしれないけれど。
心配かけているのだと思う。
……でもアズも居なくて二人きりなのはどうなんだろう? なんでアズは居ないの?
「あの……アズは」
「私がついているから先に食事を摂るように伝えたのだ。私は先に朝食を頂いたからね」
そうか。ここは宿だ。食事が出来る時間が決まっているからオズバルド様のその判断は間違っていない。
「ご迷惑をおかけしました」
「迷惑だなんて思っていない。体調はどうだろう」
「頭痛は……治りました。喉が渇いて」
「ああ、今、水を」
私がやります、と言う前にコップに水を注いでくれるオズバルド様。礼を述べて起き上がろうとしたところで手で制されそっと背中に手を当てられたと思ったらオズバルド様に寄りかかるような体制にされた。
……なんで?
「あの、オズバルド様……」
「オズと呼んで欲しい」
いや、愛称呼びは無理ですけど?
「オズバルド様、あの」
再度呼びかけたら今度は無言で視線を逸らされてしまう。いや、あの、お水が飲みたいんですけど。
でも、コップはオズバルド様が持っていて渡してくれる気配が無いし。無理やり奪い取ることは出来ないし。……というか、水を溢しそうだし。
どうしたら……いや、あれか。考えるまでもなく愛称呼びをしなくてはいけないというやつか?
でもなぁ……。愛称呼びなんて……距離を縮めるようなものだし。
でも喉は渇いたし、この体制についても尋ねたいし。
「あの、お、オズ様」
「様は要らない」
「お、オズ」
「ん。水を飲もうか」
私が愛称で呼びかけた途端に視線を合わせてきた上にニコニコと笑顔で……って、いやなんで笑顔なのか分からないんですけど?
兎に角笑顔で更には持っていたコップをそのまま私の口元まで持ってきて傾けてくる。
いや待って! コレ、口を開けないと水が溢れるやつ!
慌てて口を開けるとゆっくり慎重にコップを傾けてくれる。……だけど、慎重過ぎて水が僅かしか口に入らない。私はゴクゴクと飲みたいのよっ。
とはいえ口からコップが離れないから喋ることも出来ないので、一度オズバルド様の手を押さえて口からコップを離して。
「もう少し、沢山飲みたいので自分で飲ませてください」
とお願いすれば。
とても残念そうな顔で渋々とコップを渡してくれました。
……いや、さっきからオズバルド様のことがよく分からないのですが、取り敢えずなんで残念そうにコップを渡して来るのでしょうね。
自分でゴクゴクと飲みたいんです、私。
お読みいただきまして、ありがとうございました。




