2-3 政略結婚って
「政略結婚というより契約結婚が一番良いのかもしれないね」
私がポツリと零せばアズがハッとした顔になる。
「お嬢様、お嬢様はまだ十二歳です。恋愛も出来ますわ! それに、婚約者はオズバルド様です! 政略結婚では無いですよ!」
って言われても。
「オズバルド様との婚約って王命だよ……?」
アズ、覚えてる?
言外に尋ねるとアズがあっ、という顔を見せた。どうやら忘れていたらしい。珍しいこともあるものね。
「で、ですが、婚約は継続してますよ?」
「まぁなんでか分からないけど。取り敢えず伯爵家は褫爵されて一応の父も義母も異母妹も平民。お兄様も私も平民。三男とはいえ公爵家のオズバルド様と婚約が継続されている理由が分からないんだよねぇ。ロイスデン公爵家になんの利益にもならない婚約って……継続する意味ある?」
アズに尋ねると、無言になった。ヒルデもスンと真顔になってる。二人共に何のウマミも無い婚約が継続される理由に思い至らないらしい。
ですよね。
私も継続されている理由が分からない。
「でも、婚約は続いてますよね……?」
アズが確認をしてくるので頷く。
「公爵様から速攻で破棄されるかなぁって思っていたんだけど。解消でもどちらでもいいけど。王命の理由はクリアしているし。継続する理由が分からないし。平民だし。……オズバルド様に尋ねてみようかなぁ……」
というか、政略結婚の話からだいぶズレたな。
「お嬢様。確認は大事ですが、生活の基盤を整えてからでも良いとは思いませんか」
なんで婚約が続いているのか、オズバルド様に確認してみようと思ったらアズが真顔でそんな忠告をしてくる。
でも、その通りだ。
生活の基盤が何もない。
お兄様とアズとヒルデと暮らすのに辺り、オズバルド様や公爵様のご厚意に甘えてロイスデン公爵領に住まわせてもらうことになっている。
どういうわけか、公爵様も夫人も私のことを気に入ってくれているので、有り難く公爵領に向かっているわけだけど。
平民街の一軒家を出来れば買いたいし。買えなくても借りたいし。
でも家の確保よりも前に仕事見つけて給金の確保が先だよね。先立つモノが無くては家もゲット出来ないけど、ごはんも食べられずに路頭に迷うことになりそう。……いや、多分、あの公爵様のことだから、さすがに私が路頭に迷うことは避けて来そうだけど。
でもなぁ、そこまで甘えたくないっていうか。ここまで図々しく甘えているんだからこれ以上はダメじゃないのかなって思う。
「うーん……。考えてみたら、なんの利益も無い私のためにこんなに良くしてくれるロイスデン公爵様のご厚意に甘えているけど、図々し過ぎかぁ。……婚約のことも気になるけど。何も恩返しが出来ないのも気になるから、公爵様と契約を交わすとか、どう思う? アズ」
「……ええと、例えばどのような契約を交わすおつもりで?」
「使用人として雇ってもらう。給金は生きていく上での最低限をもらって。ついでにオズバルド様との婚約を解消してもらう。使用人と婚約は無いでしょう。……それともあれか。お兄様と私が働けそうなところを紹介してもらう。……あれ? そういえば婚約が無くなったら、私に働く場所を紹介してくれるって契約を交わしていたわ。アズ、契約書、あるよね?」
初めて王都にあるロイスデン公爵邸を訪ねた時に婚約が無くなったら働く場所を紹介してくれるっていう契約を交わしたんだった!
契約書はアズが持っていてくれるって話だったから、アズが持っているよね?
お読み頂きまして、ありがとうございました。




