7-1 味方が分かるまでは
アズの質問に動揺してしまった。
この時点で「なに言ってるの?」 と笑い飛ばす方向で話を曖昧にするのは無理だった。どうしようか考えて……諦めた。アズは私付きの侍女ということも含めてずっと私を見て来た。誤魔化すのは難しい。
でも。
全部を話すことは躊躇う。
「アズは」
「はい」
「お祖父様と宰相補佐様とお母様の方のお祖父様と。誰を主人にしているの?」
最初のお祖父様は父の父。あまり会った記憶は無いし、真面な人みたいだけど、それは父と比べたら……じゃないのか、と執事・クリスと庭師・フォールから聞く祖父の話から推察する。その祖父に雇用されているのは知っているけれど、アズは母の父である祖父の友人・宰相補佐から紹介されて雇われたそうだ。
だから執事と庭師程、父の方の祖父に敬意を抱いてないとは思うけど。それはあくまでも私の考え。アズの気持ちではない。
「やはりお嬢様は変わりましたね。以前のお嬢様ならそのようなことを考えても口にはしなかったでしょうから」
アズはちょっと笑ってそんなことを言った。
そして
「私の給金は前伯爵様から頂いていますが、主人と思うのは亡き奥様のお父様にあたる前侯爵様ですね」
「宰相補佐様は?」
「お嬢様はご存知のように、私は元々伯爵令嬢でした。家が没落し、一時期平民として父亡き後、母と弟と三人で生活していました。宰相補佐様はかの方が新人の頃、父が上司で仕事を教えていたそうです。で、些細なものでしたが宰相補佐様が仕事でミスをされた時、父が助けたとか。その恩を覚えていて下さったとかで、私達三人を保護してくれたのです。とはいえ、私達は平民の生活になれていたので貴族に戻る気は無かったのですが、父は王宮の政務官として派閥争いに巻き込まれ、その犠牲で家が没落。宰相補佐様は政争で没落した父と私達を哀れみ保護してくれ、貴族に戻りたいのなら母にどこかの後妻になれば……という話をしてくれました。でもそれを断り、私は働き口を紹介して欲しいと頼んで、宰相補佐様が侍女の仕事を紹介してくれました。採用までに礼儀作法を宰相補佐夫人が教えてくれて、最初はお嬢様にとって母方の祖父にあたる侯爵家で働いてました。そう言った意味で恩はありますけど、それだけですね。そして奥様とお嬢様の味方になるよう、この伯爵家の侍女としてやって来たのです」
アズは嘘を話すことも出来るでしょう。でも、本当のことを話しているように思えます。
私は少し考えてアズに伝えます。
「アズが気になることを尋ねてくれる? それに答える形でいいかしら。嘘はつかないわ」
正直に話すかどうかは別だけど。
「畏まりました。では、改めて。お嬢様であってお嬢様ではないあなたは、どなたですか?」
「アズの言う通り、私はネスティー。ネスティー・ラテンタールよ。それは間違いない。だからアズの言う“お嬢様”なのよ」
「でもそれだけではないですよね? お嬢様は今まで、一応の父親である伯爵達に逆らったことは有りませんでした」
「そうね。アズが信じられるかわからないけど。私、ある日夢を見たの」
「夢……」
前世を思い出した、と言うと何だか面倒くさくなりそうだと思った私は、夢としてオズバルド様と婚約していたことを話した。
「で、夢の通りの方が婚約者として現れたから、その後の夢も本当になるんじゃないか、と思ったの」
「成る程。……その後の夢とは?」
どうやらアズは夢の話だ、と一蹴しないで真剣に聞いてくれるみたい。だから私は自分が成人も迎えずに死んで、それをオズバルド様が悲しんでいる、という夢を見たと話す。
「お嬢様が成人を迎えられないと?」
アズが衝撃を受けたようで口に両手を当てています。
「夢だと思っていたけど、オズバルド様が現れたし。考えてみたら、今の私は、確かに死んでもおかしくない気がして」
「確かに。お嬢様は食事も真面に食べられないですし、家具も小さい時のままで手足を伸ばして眠ることも出来ない。こんな環境で何とか成長出来ていることが凄いですし……。あんな暴力を振るわれていたら死んでしまってもおかしくないですね」
アズが冷静に現状を指摘します。ええ、酷い環境です。
「だから、夢だと思っても死にたくないなって、反撃したのよ」
「よく決意して下さいました! そんな夢を見たことでお嬢様のお心が変わってしまったのですね。夢だとしても死にたくない、と思い変わったお嬢様は間違っていません。お嬢様が変わられた理由を理解しました」
アズは私の話を信じてくれたのか、強く頷いた。
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