1-2 公爵領に向かいます
「そういえばネスティー」
「……はい」
この名前の呼び捨ても突然で気になるのは気になるのですが、なんだか突っ込んだら薮から蛇を出しそうな気配を察知したのでそこはスルー。
「私は以前、父上からの話でオーデ侯爵は君の母上の弟だと伺った記憶がある。ネスティーが拐われた騒動で違和感を覚えていたがすっかり忘れていた。だがその違和感を思い出したが」
「ああ、伯母様……つまり女性でお母様の姉が侯爵であるということ、でしょうか」
「そう」
オズバルド様の疑問に直ぐに思い至る。
オーデ侯爵が男性だと思っていたとしたのなら、確かに疑問に思うよね。
「恐れながら私も当主様は男性……お嬢様から見て叔父に当たられる方だと伺っておりました」
アズもそっと疑問を提示する。
「多分だけど……伯母様って慎重な人で悪戯好きな人なんだと思うの」
私の印象だけど、と前置きして伯母様の性格について言及する。不思議そうな表情のオズバルド様とアズとお兄様をゆっくりと見てから言葉を紡ぐ。
「慎重という意味は、この国では女性より男性の継承が圧倒的に多い。女性が爵位を継いでいることを厭う人の方が多数だとアズが教えてくれた。伯母様も同じことを懸念したのではないかしら。女性である伯母様が殆ど表に出て来ないオーデ家とはいえ、侯爵の地位を継いでいることを快く思わない人が出て来るだろうことを懸念した。伯母様は圧力に潰れるような人ではないけれど、避けられる事態なら避けておく方がいい、と判断した。……これが慎重だと思う理由」
なるほど、と頷く三人に更に続ける。
「悪戯好きな性格というのは、お母様の弟が当主という部分。伯母様はお母様の姉にあたる方だから、ただ女性であることを隠したいのならお母様の兄としても良いはず。だってお母様に兄が居るか弟が居るか姉や妹が居るか、なんてオーデ家に関わる人以外は興味が無いことだと思うから。でも敢えて対照的な存在……つまり女性の対照として男性と言われるのなら、年上の対照として年下を考えたのだと思う。だからお母様の弟である叔父様をオーデ侯爵家の当主である、という話にした。そういった対照的な存在を生み出す辺りは悪戯好きな感じがすると思うでしょう。だから、悪戯好きな性格だ、と話したのです」
「なるほど。ご自分の身を守るだけでなく遊び心を持ってネスティーの母の弟という存在を作り出したのか」
そういうこと、だという予想。でもあの茶目っけのある同じ転生者の伯母様ならば可能性は高いとのではないかな。
それにオーデ侯爵が表舞台に立たない人だとはいえ、女当主より男性としておく方が良い。女ってだけで風当たりが悪くなる男性社会なの、貴族社会って。男ってだけで偉いと勘違いしている貴族筆頭はきっと、あの伯爵だと思う。
……あんなのと血が繋がっている上にそっくりであることは仕方ないとはいえ、嫌だと思う。神様もなんだってあんな男の子に転生させたんだろう。
あれか。
私がオズバルド様が主役の小説が好きだったからか。大サービスってやつかな。でもなぁ……。転生よりも日本人として生きて小説の完結を見届けたかったよねぇ。
私、死んでないからオズバルド様が冒険者になる可能性も低くなっちゃったし。
ーーん?
オズバルド様が冒険者になる未来が、無い?
あらぁ……? やっぱり小説に似た世界ってことで、別世界ってこと?
いや、でも、まだ可能性の問題で冒険者にならないと決まったわけじゃないし……。
でも、オズバルド様って冒険者にならない未来では何をするつもりなのかなぁ。まぁ、オズバルド様は十五歳。小説の話がスタートするのは三年後だから、まだ分からないよね。
あ、でも、ちょっと前、私の体調が悪かった時に冒険者は目指さない、と断言していたような。断言していた……ね。そうか冒険者にならないのか。
……というか、こんなに濃い日々を送っているのにまだ一年も経過していないことが一番恐ろしくないでしょうか……。
お読み頂きまして、ありがとうございました。




