6-3 間話・婚約者が攫われた裏側〜オズバルド視点〜
「手を引け、というのは」
ガスティール殿がもしや、という顔で父上を見る。私も同じ気持ちで父上を見た。
「そう。ネスティーを次のオーデ侯爵に指名する、ということだ」
嫌な予感が当たった。
……が、想像以上の答え。
「ネスが次のオーデ侯爵⁉︎ ネスティーはオーデ侯爵家の生まれではありませんよ⁉︎ 私はネスティーを養子に迎えたいということかと思っていました。もちろん女性が後継になることは我が国の法では認められていますが、風習として男性でないと風当たりが強いから、ネスを養子に迎え、その夫を侯爵にするのかと……」
ガスティール殿の悲鳴染みた紡がれる言葉。
私もそう思っていた。
「オズ。お前はオーデ侯爵家がどんな家か知っているか」
父上はガスティール殿の言葉に返すことをしないで私に尋ねる。
「侯爵家なのに領地が無い。後は不思議な力が代々ある……?」
「そう。まぁオズの兄達もそんなものしか知らないからそれだけ知っていればいい方だな。あの家は寧ろ女性が当主に立つ。というか、その血を引いた力を発揮するのが女性だけだから、と言うのが正しいな。だから」
「ネスティーが次期オーデ侯爵、と……」
父上の切った言葉をガスティール殿が繋げる。そういうことだ、と頷く父上。多分、公爵当主だから知る内容なのだろう。それを話せる範囲で父上は話している、そんな気がする。
「ですがネスティーはオーデ侯爵家のことなど何も知らないはずです」
言い募るガスティール殿に、父上が軽く頷く。
「今のオーデ侯爵は、ガスティール君とネスティーの伯母に当たる女性だ。その侯爵本人から私に直接会いたいと連絡を寄越し、先日会った。ガスティール君と似た顔立ちだったから彼女がオーデ侯爵だ、と知った。オーデ侯爵が言うには、ネスティーがこれ以上傷つく姿を見ていたくないから……と。人は自分とは違う力を持つ者に憧れることもあれば、忌避することもある。前者の場合は自分でも努力すれば何とかなる、かもしれないけれど出来なかった場合。後者は自分で努力してもどうにもならない、と悟る場合。そしてオーデ侯爵家の血を引く力とは後者に当たる。だから忌避される傾向にある。それはつまりネスティーの心がまた傷つくことを意味するということだ、と」
ああ、そういえば兄上達のことを尊敬するが、確かに私自身がもっと努力すれば兄上達みたいになれるのではないか、と思う時もあった。結局は無理だったが……。でもそれゆえに兄上達に憧れる。
ーーその感情は理解できる。
そしてネスティー嬢のような特殊な力というものは、自分ではどうにもならないことだから、努力しても手に入るようなものではないから、怖いということもあるし、妬ましく思うこともあるのかもしれない。
……そういうこと、だろうか。
この考え方でいけば確かにネスティー嬢を忌避する者達が多数なのかもしれない。
そうか。
人は自分には無いモノに憧れることもあれば恐れることもある。
オーデ侯爵は……そんな人達の心無い態度を取られたネスティー嬢の気持ちを慮っている、ということか。
だからオーデ侯爵家の庇護下に入るよう、父上に手を引け、と言ったわけか。併し父上も……そして私も、そう簡単に手を引く気にはなれない。
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