6-2 間話・婚約者が攫われた裏側〜オズバルド視点〜
父上が食堂へ移動し、私、ガスティール殿、アズ殿、アズ殿の母君が席に着く。
「抑々は、ネスティーが今回の馬車事故で口走ってしまったことが原因だ」
父上が切り出す。
そして、オーデ侯爵家にはネスティーの存在が気付かれていたこと。
それもかなりの力を持つ存在だと気づいていたこと。
「けれど当主はネスティーの家庭環境を知り、胸を痛めていたので見て見ぬフリを決め込むつもりだった」
私……ロイスデン公爵の庇護下であることによって、と父上が続けていく。
ただ気になるのは“つもりだった”の言い回し。
「あの、公爵様。その言い方ですとネスは見逃されなくなってしまった、ということ、ですか」
ネスティー嬢が居ないと知って顔を青褪めさせていたガスティール殿が、ネスティー嬢は無事と知って顔色が戻ったと思ったのにまた顔色が悪くなる。
けれど彼が尋ねたことはまさに私も知りたいことだ。
「そう。ネスティーが今回の馬車事故で口走ってしまっただろう? 未来に何が起こるのか、と。あれを聞いた民衆は一様にネスティーを異物として扱った。誰だって自分に無い異質なモノには抵抗感があるものだ。だから民衆の気持ちを汲み取った宰相の子息は早々にネスティーの退場を口にした。保護するよう父である宰相から聞いていても、領民の心の安寧と秤にかければ仕方ないと決断したのだろう。その判断は間違っていない、と言える」
父上はそこまで話すとガスティール殿と私を見る。私達の反応を見るために。
ガスティール殿は言いたいことを堪えるような表情を浮かべてからコクリと頷く。私としてもその決断に異を唱えることはしない。
「ネスティーも宰相子息の決断に粛々と従ったが。問題は、オーデ侯爵家当主が動いたことだ」
父上が少し厳しい顔つきで説明を続けていく。
「オーデ侯爵としても今回の件が無ければネスティーを見守るという方針のままで静観するつもりだったみたいだが。大勢の人の前で異物扱いされるような発言をしたことで排除される結果を招いた」
父上が困ったような表情を浮かべて息を吐く。
「ネスティーがそんな目に遭ったことで、オーデ侯爵家当主はネスティーを保護しなかったことを悔やんだ。ネスティーが異物扱いされることも保護する理由の一つだ。一方でオーデ侯爵家の血を引くことを大勢の第三者に知られてしまった」
それはオーデ侯爵当主にとって望ましくない事態だった、と父上が続けた。
「単純にネスティー自身が第三者から利用されることを防ぐ意味合いもあるし、オーデ侯爵家の血を持つ存在が公に知られるのはオーデ侯爵家そのものが利用されることにもなる。また、オーデ侯爵家そのものが大勢から異物の排除を望まれることになる。そういった事態を避けるために、オーデ侯爵家当主はネスティーの保護を決めた」
ネスティー嬢の保護。それはつまり。
「ロイスデン公爵家からの庇護下を脱することを意味する。つまり私に手を引け、と言っているということ」
そういうことになる、よな。
……ああそうか。
父上はネスティー嬢を気に入っている。それにも関わらず手を引け、と横槍を入れられるのはかなり腹立たしい思いをしているのだろう。
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