6-1 間話・婚約者が攫われた裏側〜オズバルド視点〜
「父上、何故此処に」
私は尋ねながらもやはりこの一件は父上が絡んでいたのだな、と納得していた。
私自身が我が家の使用人達の腕前を知っている。少数だからといって出し抜かれるとしたのならネスティー嬢を攫ったのは余程の腕利きという事になるが……。
彼らは父上自らが選抜した所謂精鋭だ。
ネスティー嬢はその家庭環境から周囲に人が居ることに慣れてない。
服を着ることも顔を洗う水を用意することもそんな些細なことも傅かれるようにして世話をされてきた私だが、本来ならネスティー嬢もそのようにして世話をされるような立場だった。
けれどその家庭環境からアズ殿一人しか侍女が付かなかった。
つまりアズ殿一人で補助が足りるだけのことをネスティー嬢自らが色々と出来るということ。
また殆ど外出したことがない彼女は護衛が付く経験もない。抑々あの家に護衛が殆ど居なかったのもあるだろうが、ネスティー嬢は護衛付きの行動を取ったことがないから戸惑っていることはヘルムが居るだけでも判明している。
だからこそ、この屋敷に来たネスティー嬢の負担にならないように、父上自ら選抜した精鋭の使用人達だ。
その彼らを出し抜く程の腕利きが彼女を攫ったとして如何にも攫ったと分かるような証拠を残して行くだろうか。窓に引っ掛かっている縄のように。
分かり易く証拠を残している時点で作為的なものを感じていた。
それでヘルムが私に付いていたとしても他の皆が居たのに出し抜いたなんて、と信じられない上によく見ると冷静。無論公爵家の使用人として日頃から常に冷静さを失わないように訓練されている彼らだが、それにしても冷静過ぎた。
だから可能性として。
彼らが事情を知っている可能性も考えていた。
とはいえ、アズ殿とその母君と兄君のガスティール殿の取り乱しとそれを慰めて宥める我が家の使用人達を見るとそこまで違和感もなかったので確証は無かったが。
だけど、もしや私が試されている……?
そう考え付くと我が家の使用人達が出し抜かれたのではなくこの一件に関わっているし冷静過ぎるのも理解出来た。
そして父上が現れた。
……やはり父上がこの一件に関わっていたのか、と納得もしたし、合格の一言で私が試されていたことも理解した。
「こ、公爵、さま?」
呆然と父上に呼びかけるのはネスティー嬢が居なくなってへたり込んでしまっているガスティール殿。アズ殿と母君も父上の姿を見て驚いて声が出せないようだ。
「場所を変えましょう。ネスティー嬢は無事ですから安心してください。……このことについてお話します」
父上はガスティール殿とアズ殿とその母君を安心させるようにゆっくりと言葉を紡ぎながら、ネスティー嬢が無事だ、と告げる。それを聞いた三人はハッとした表情を浮かべガスティール殿に至っては跳ね上がって動き出した。
窓に引っ掛かる縄を部屋の中に入れて窓を閉めてドアも閉めてから私も父上の後を追う。
私が試された理由は、多分、私がロイスデン公爵子息として、というよりは、どんな状況でも冷静に対応しながら考えて決断する力があるか、確認をされたのではないか、と考える。
……おそらく、ネスティー嬢を守るために自分の持てるものを全て使って守れるのか、それを父上は確認したかったのではないだろうか。
もし、そうだとしたら。
ーーなんだか嫌な予感がしていた。
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