5-1 オーデ侯爵家の真実
「そろそろかな」
私の従兄弟らしい男性が呟いた。
「そろそろ、とは?」
答えてもらえるとは思っていないものの尋ねてみる。未だに名乗らない彼はオーデ侯爵家所縁の人物であるし説明からして従兄弟のはずなのに、殆ど大切なことは喋らない。気兼ねなく当たり障りのない会話はしてくれるけれど大切なことを何一つ喋ってくれないので推定従兄弟としか言えない彼の呟き。
「うん? 君の婚約者が気づいたかなぁってこと」
「オズバルド様?」
答えてもらえたことも驚きだしオズバルド様のことを言われて更に驚いた。
「そう。君の婚約者が気づいても気づかなくてもどちらでもそろそろ君が居ないことには気づいただろうから」
私が居ないことに気づいたかどうかではなく、別の何かに気づいたか否かというような意味合いの言葉に首を捻る。そのことの説明をされるとは思ってないので尋ねることはしなかった。
でも私の予想に反して、推定従兄弟が言葉を続ける。
「君の婚約者。ロイスデン公爵家に生まれたけれどその生まれが間違っていたのではないかってロイスデン公爵は思っているらしいんだよね」
而もかなり聞いてはいけない内容をサラリと告げて来て、これは確実に私を巻き込むつもりなんだろうなって嫌でも理解する。
オズバルド様のこととはいえ、ことはロイスデン公爵家のゴタゴタのように思うのに。
「それ、私に話します?」
「だって婚約者でしょ」
「それは、そうですが」
「……なるほど。素知らぬフリをして婚約が解消されることを待ち望んでいたのか」
私がオズバルド様とロイスデン公爵家のアレコレに関わりたくない、と躊躇ったことに推定従兄弟は気づいたようで正解を当ててきた。……全く嬉しくないけど。
「素知らぬフリというか」
無言を貫いていたら極力関わらずに婚約を無かったことにしてもらおうと思っていることも当てられる。あまりいい気はしない。
「ネスティー。君はオーデ侯爵家が存在しない家だと知らないだろう? まぁ君の母が教えていないのだから仕方ないのかもしれない。本当は知っておくことなんだけどね。そして、公爵家の子息である君の婚約者はそれを知っていなくてはならなかった。だが、三男という生まれの気安さからなのか、それとも元々の資質の所為か、彼は素直過ぎた。オーデ侯爵家という名の家がある、と教えられて受け入れた。もちろん教わったことを疑わないのは良いことだし、オーデ侯爵家はある、という事になっているから教えられて受け入れるのは構わないけれど、段々と本当は無いことに気づかなくてはならなかったんだよね。高位貴族の子息として、特に公爵家の子息としては」
あまりにも然りげ無く重要なことを口にされたので危うく聞き逃すところだった。
取り敢えず突っ込みたいことがいくつかあるけれど、まずは。
「サラリと重要なことを当たり前のように口にしないで! 聞き逃すタイミングだから!」
こちらの心構えも何もなくスルリと言葉を発してぼんやりしていたらアウトなやつだと思う。
私の突っ込みに彼はクツクツと笑いながら「それは済まないね」と謝罪とも言えない言葉を繰り出した。
「さて、では改めて。私はオーデ侯爵家当主・ディオの息子でありネスティーの従兄弟であるクリアという」
彼は笑いを納めると自己紹介をする。
オーデ侯爵家が無い、と言った口で当主の息子を名乗る彼が分からない。
「クリア」
取り敢えず名前を知ったので鸚鵡返しに名を呼んでみた。
「うん。まぁ正確に言うと代々透明という意味を持つクリアという名前を受け継いでいるんだけど。当主の名でもあるディオも代々の当主が受け継ぐ名前だよ」
そんな気軽さでクリアは大切な話を始めた。
……本当に色々と言いたいことばかりの重要発言なのにこの気軽さってなんなの、と頭を掻き毟りたくなるけれども。
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