6-1 間話・聞かねばならないこと。〜アズ視点
今話では、家人という言葉が出て来ます。
夏月の中で家族という意味合いで使用してますので、使用人は入りません。
お嬢様が目を覚ましたのはあれから三日後だった。その間、クリスさんとフォールさんが他の使用人やクズ達の目を掻い潜って二度顔を出してくれた。クリスさんもフォールさんも前伯爵様に報告書を出したらしい。前伯爵様への定期報告は、クズに見せても大丈夫なものを作ってからその後付け足すとかで、一度確認すればクズはそれ以降を確認しない、らしい。だから付け足してもバレないとか。
領地の前伯爵様へ報告書を出してから返信が来るまで五日かかる。だから今回の件について何か指示があるとしてもまだ返信は来ない。今回の件、前伯爵様はどう対応されるのだろう。これまでのことを考えるとまた様子見だろうか。
「本当は、かの方はお嬢様を引き取りたいと思っています。ただ……ご存知のように坊っちゃまが居るところへお嬢様を引き取れば、かの方は旦那様達への支援をしないので」
クリスさんがいつか溜め息をつきながら教えてくれたことがある。
いつもいつも様子見で終わらせる前伯爵様は跡取りではないからお嬢様のことをどうでもいいと思っているのか、と尋ねた時のこと。
その時教えられたのは、自分で後継者教育が出来ないから……と坊ちゃまの後継者教育を前伯爵様に押し付けたクズに、前伯爵様がせめてお嬢様は自分で教育しろ、と仰ったらしい。その際にお嬢様も押し付けるようなら愛人と手を切って愛人と娘への支援を打ち切る、と仰ったとか。
それで表向きは自らお嬢様の教育に力を入れている態を装っているのだとか。
つまり愛人とその娘への支援を続けるために、私にお嬢様の教育係兼侍女を押し付けたわけ。前伯爵様も幼馴染以上の関係になれずに婚外恋愛をする息子に苦々しく思ったようだが、人の気持ちは仕方ない、と亡き奥様が受け入れたからこそ息子の代わりに愛人とその娘への支援を引き受けていた、とか。なんでクズが愛人とその娘への支援を直接しないのか、という事については。
単にクズにその甲斐性が無いから、に過ぎない。
伯爵家の領地や家の管理等“伯爵家”の物は領地の収益で賄われる。それには使用人の給金や家人の生活費等も含まれるが、愛人とその娘は“伯爵家”の者ではない。その支援はクズが自力で稼いだ金から自分の小遣いとして支払う。それはそうだ。伯爵家だけでなく貴族の収支に関する報告書は王家にも提出する。そこに愛人とその子の分の金も使いました、なんて恥晒しもいいところだ。
国から預かって代わりに治めている領地の収益から伯爵家の家人や使用人達以外の者に支払う金を捻り出せない。他国は知らないが我が国では愛人とその子は、伯爵家とは関係ないクズ当人の関係者として扱われる。平民だろうと愛人ではなく妻ならば伯爵家の者として扱われることもあるが。既に跡取りとその他にもう一人の正当な子がきちんといる伯爵家に、後妻は兎も角、娘は不要。伯爵家の家人にはならない。だからこそ養女にしかならない。跡取りの居ない貴族家とは全く立場は違う。
それを引き取ったのはクズの判断。
伯爵家の家人とならない養女への生活費その他はクズが稼いだ金から出るクズの小遣いから支払われる。
それで賄いきれないからこそ、前伯爵様に支援を頼んでいたのだ。前伯爵様は最初、自力で何とかしろと断ったそうだが、それに躍起になったクズが怪しげな投資に手を出しそうになって(後日、投資詐欺だったことが判明)慌てて前伯爵様が支援した。それが未だに続いている、らしい。
まぁ怪しげな投資に手を出そうとするようなクズを止めなければ、今頃伯爵家は無くなっていたかもしれない。爵位返上・領地没収だけで済んだかどうか……というくらい悲惨に。それを考えれば確かに前伯爵様が苦渋の決断で、愛人親子の支援を決断する、と思う。多分。
クズが抑々愛人を持っていることに関して、どうにかしておけば良かったのに……と思ったけれど。
お読み頂きまして、ありがとうございました。