4-2 間話・消えた婚約者〜オズバルド視点〜
そう考えるとやっぱりおかしなことがある。
何に引っ掛かっているのか自分でも分からないが何かがおかしいと思う。
こういう時、父上や後継として教育されているアル兄上とスペアとしてそれなりに教育されていたイル兄上なら何が引っ掛かるのか、分かるのかもしれない。
……いや、私も教育は同じくらい受けている。もちろん後継でもスペアでもないからロイスデン公爵家の執務に関することは分からないが、自家の領地の特産品や特産品がどのように作られるのか、といった知識は教わっている。
同様に他家の領地のことも王家に関してもある程度の知識は教わっているし、公爵家だから他家から命も狙われる可能性もあるかもしれない、と身を守る術やその知識も与えられた。
こうして攫われる状況に関しても知識を与えられて思考能力も与えられている。
今回攫われたのは私ではなくネスティー嬢だったけれど。
……ああそうか。
引っ掛かることの一つが分かった。
ネスティー嬢が狙われた、ことなのか、と。
この屋敷はちょっと調べれば父上……つまりロイスデン公爵が買ったことは直ぐに分かる。直ぐに暮らし出したのはネスティー嬢だが私がこの屋敷に暮らし始めたこともちょっと調べれば分かるはずなのだ。
そして裕福な平民のネスティー嬢より三男とはいえ公爵子息の私の方が、客観的に見て価値は高い。ネスティー嬢と私なら私を狙う方がいい。
ただ、私はそれなりに成長している男子でネスティー嬢は小柄な女子。攫うだけならネスティー嬢の方が容易なのは確か。だが攫った相手は、何を目的としたのだろう。
平民の裕福なネスティー嬢のお金なのか。
元伯爵令嬢のネスティー嬢へ伯爵家に関する恨みとか或いは伯爵家の仕打ちの改善とか。
その身に流れるオーデ侯爵家の血を持つネスティー嬢自身の身柄なのか。
それともロイスデン公爵家と繋がりを得たい者の浅はかな企みなのか。
或いはロイスデン公爵家に恨み若しくは含む所がある者の浅はかな企みなのか。
ネスティー嬢を攫うことは彼女自身の価値を知る者なのか、それとも我が家に何か含むことがある者が容易に攫うことが出来そうなネスティー嬢を狙ったのか。
ただ、浅はかな者ならこんなに簡単にネスティー嬢を攫うことなど出来ない。それはロイスデン公爵家の護衛として雇われている彼らを信じていることに起因する。
……もしも、護衛や使用人がロイスデン公爵家を裏切っているのなら? つまりネスティー嬢を攫うことに加担していたとしたのなら?
その考えもあったが、父上からネスティー嬢をきちんと守るよう伝えられている彼らがそんなことをするとは、やはり信じられない。この考えを排除はしないが可能性はかなり低い、と思える。
となると、浅い知恵でネスティー嬢を攫おうなんて相手を護衛達が気づかないとは思わない。もし我が家に含む所がある者が相手なら、やっぱり我がロイスデン公爵家の者達を出し抜けるような精鋭が居る事になる。
そんな精鋭が独断でネスティー嬢を攫うことは無いはず。つまりどこにも雇われてない者が手を出すことが出来るような緩い護衛なんてウチの者達が行うわけがない。
考えろ。
兄上達との教育の差などロイスデン公爵家の跡取り教育以外は殆ど無いのと同じだ。
三男だからと言ってロイスデン公爵家の人間である以上は、教育に手を抜くことはしない、と父上も母上も仰っていた。知識は得ているはず。
後は思考能力と経験値の差だろうけれど、私自身が攫われたとしたのなら、と我が身に変えて考え、父上だったら兄上達だったらどうするのか、と想像すればいい。
こんな時、お前達ならどうする? と事あるごとに考えることを父上は提示してくれていた。
今、その思考能力を発揮する時のはず。
父上なら、母上なら、兄上達なら、ネスティー嬢なら、そして私自身なら、攫われたとしたらどうするのか。相手が誰なのか考えるのならどう考えるのか。ネスティー嬢だったら、どう行動を取るだろうか。
考えろ。
お読み頂きまして、ありがとうございました。




