3-2 間話・消えてしまったたった一人の家族〜ガスティール視点〜
「ネスが行方不明になったとはどういうことだ!」
ネスティーが俺が手を伸ばす前に自力であの男の元から逃れようとチャンスを掴んだ。
それは王命による婚約という有り得ないくらいの幸運によるものではあったが、自力で逃れた。ロイスデン公爵という王家に継ぐ最大権力者の一つの力を持って、だったが。その公爵様が直々にネスティーに力を貸してくれて逃げ場と用意されていたこの屋敷にネスティーがやって来てから少しして、俺もこの屋敷にやって来た。
ロイスデン公爵様は祖父が亡くなりその対応や領地と領民のことをどうするか、右往左往していた俺の前に颯爽と現れてあっという間に問題を片付けてくれた恩人。そしてネスティーを実の父親による虐待から救ってくれた恩人でもあった。
その恩人の手を借りて領地のこと、領民のこと、領地の屋敷に仕えてくれた使用人のこと、王都内にある屋敷に仕えていた使用人のこと、全てを片付けた俺はようやくネスティーの元を訪れることができた。
小さい頃の面影を残す、というよりあまり成長していなかったネスティー。それだけ虐げられていた証のような気がして会えなかったことが悔やまれてしまう。それでもこれからは……そう思いつつ、ネスティーが母方の血を引き継いでしまっていたことを知って守ることを決意し、宰相様の代理で現れた子息様に侯爵領追放を言い渡されてしまったネスティーを慰め、俺も今度は離れ離れにならないようにネスティーと共に行こう、と思っていた。
ネスティーはロイスデン公爵子息であるオズバルド殿を頼りにしたようで、ロイスデン公爵領へ行くことを決断した、と話してくれた。
もちろん俺も行くし、ネスティーの専属侍女のアズとその母親も一緒に行くことが決まり、オズバルド殿がロイスデン公爵様に了承をもらいに出かけた次の日の朝。
……ネスティーが行方不明になった、と気持ち良く眠っていたところでそんな悪夢のような一報がアズからもたらされた。
「先程お嬢様の部屋に入って様子を見ようとしたところ、お嬢様のお姿がなく」
俺の取り乱した声が聞こえたかのように、オズバルド殿が帰還し、アズは俺とオズバルド殿を含む皆に状況を説明した。鍵が掛かっていたはずの窓が開いていてその窓から侵入した者が居たこと。ネスティーを攫って去って行っただろう痕跡があると聞いて、思わずネスティーの部屋へ駆けて行く。開かれっぱなしのドアから中に入れば確かに窓枠に引っかかっている鈎のような物が見え、近づけば窓の外に縄が地面まで吊るされていた。
それを確認してへたり込む俺の隣に、険しい顔のオズバルド殿が立ち、更に足音が聞こえて振り返ればロイスデン公爵様に雇われている使用人達とアズとその母がドアの向こうに立っていた。
「ガスティール殿、ネスティー嬢を探しましょう。遠くに行ったのかまだ近くに居るのか分かりませんが、探してみなくては」
オズバルド殿に言われてへたり込んでいる場合ではない、と足に力を込めて立ち上がる。そうだ。今度こそネスティーと離れ離れになりたくない、と決めたのだから。探さなくては。
「それにしても父上が付けてくれた護衛の目を掻い潜るなど有り得ない、と思っていたのに……。ヘルムはどう思う?」
オズバルド殿の溢れ落ちた言葉にハッとする。そうだ、人数は少ないもののロイスデン公爵家の使用人達は優秀だし護衛も優秀な者達のはず。
それなのにこんな簡単にネスティーが連れ去られるなんて、と信じられない気持ちで、どうしていいのか分からない。誰かを責めてしまいそうだ。
分かっている。
誰の所為でもないのだろう。
いや、俺も含めた皆の所為かもしれない。
油断しなければ、いや、ドア前で不寝番の護衛がいたのに、どうして……。
そう、頭と感情が乱れて責めてしまいそうでオズバルド殿の冷静さが羨ましい反面、心配してないのかと怒鳴りそうで。
早く、ネスに会いたい、無事でいて欲しい、と願うのみだ。
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