3-1 間話・消えてしまったたった一人の家族〜ガスティール視点〜
気持ち良く眠っていた。
妹であるネスティーと再会してからずっと気持ち良く眠れる日々が続いていた。
俺の家族は亡き母と妹だけ。
父親? あんなクズを父親だなんて思っていない。ネスティーが生まれた時から虐げて来たような父親だ。別に俺も可愛がられていたわけじゃない。
自分ではなく母に似ていたことと跡取りだからそれなりに対応していただけで、此方からすると父親というより偶に会う近所のおじさんくらいの同居人だった。
本人はあれでも父親らしい愛情を注いでいたつもりだったかもしれないが、ネスティーに対する態度で本性を知っているから父親だとは思っていなかった。それに、愛人が居ることも分かっていたし。
母のことを愛していなくても正妻として迎え入れたのなら大切にすればいいのに、病弱な母より愛人を大切にしていた男のどこが父親らしいと言えたのか。まぁ、あれでも母を大切にしている、と本人が思っていたことは気付いていたが。
そんなどうしようもない、自分よがりの大切というものを母と俺に押し付けたが、やはり身勝手な考え方でネスティーは可愛くないどころか全てが気に入らないとばかりに、暴言と暴力を振るうような、そんな男と血が繋がっていることに失望した。
ーーただ自分とそっくりな外見というだけで。
自分の外見が嫌いだからといってネスティーを気に入らないなんて愚かとしか言えない。
そんな父の父親である祖父は、まだあの男よりはマシ程度の人物だった。
取り敢えずだが母は大切にしていたし、跡取りの俺も大切にしていた。ネスティーのことも父とも呼びたくないあの男よりは気にかけてくれていた。
気にかけてはいたが……報告されても放置していた時点であの男の父親ではあるが。
結局のところ跡取りの俺が居ればそれでいい、と思っていて跡取りを産んでくれたからと母を大切にしていただけだった、と今なら分かる。
気紛れに母のことを教えてくれる時間があの祖父との唯一の良い思い出、というやつだった。ネスティーのことは尋ねても元気みたいだぞ、という一言で終わらせられていたことに対する違和感に、気づかなかった自分の愚かさは今も後悔している。
跡取りだから、と勉強に力を入れられ、領民に寄り添えない領主は見捨てられるから、と領民達と触れ合う機会を与えられ、病弱だと領主の激務には耐えられないから、と身体を鍛えられた日々には、感謝はしている。
だからこそ、息子の教育に失敗した、という祖父の後悔を聞いても本人の資質の問題だろうとは言ったが、祖父は聞き入れなかった。
あの男に表向きは厳しく接していても結局のところは息子に甘かったのだろう、と今は思う。
もう一人しか居ない家族であるネスティーと再会して甘やかしたくなる気持ちが溢れてきてようやくそこに気付いた。
俺を厳しく育てつつ甘やかそうとした祖父の愛情は家族に対するものなのだとは思うが、ネスティーのことを放置していたところを見ると跡取りか男児にしか興味が無かったのだろう。
娘は所詮、跡取りでも無ければ嫁に行ってしまう存在だ、と考えていたのだろうことが透けて見えてくる。……振り返ってみれば、ということで今更ながら気付いたわけだが。
ネスティーと再会し、自分が守るべき存在だと認識してようやく父とも呼びたくないあの男や祖父と自分の関係がどこか歪な家族関係だったのではないか、と思えてならない。
だからネスティーに再会出来て嬉しいのに、ぎこちなくなってしまうのは、本当にこの接し方でネスティーを大切に出来ているのか自問自答をしてしまうからなのだと思う。
でも。
ネスティーが母方の家の血を引き継いでいる、と理解した時、そんな自問自答もぎこちなさも吹っ飛んだ。自分の力に怯えて震えるネスを守らなくてはならない、と使命感が芽生えた。
そう、決意した矢先、だったのに。
お読み頂きまして、ありがとうございました。