2-2 間話・何処に消えたのお嬢様〜アズ視点〜
「公爵様がそこまで仰るとは……」
「正直なことを伝えます。公爵様はお嬢様の価値を認めていらっしゃる。私もこの家に来ている使用人達も、それを理解している。最初はオズバルド様の婚約者だからだと思っていましたが、見窄らしい小さな令嬢に何の価値が、と思ってました」
お嬢様がそう言われるような姿だったのは間違いないけれど、大切なお嬢様のことを実際こう言われるとイライラしてしまう。
ですが、と彼が続ける。
「共に過ごすうちに、令嬢らしくないけれど聡明で自分の非を認められるお嬢様が可愛いと思うようになりましたし、大切にしたいと思うようになりました。だから、お嬢様を攫うなんて愚かなことを私も他も行いません。公爵様に疑われて命で贖うとしても、この一点は嘘を吐きません」
此処まで言うのだ。信じてみよう。
でも、それならば余計に疑問が残る。
護衛は少ない。でも他にも使用人は居るのに、誰にも気付かれないでこの屋敷に侵入してお嬢様を攫うことが出来る人なんて居るのだろうか。
「一応信用します。でもあなた達の誰も攫っていないなら、どうやって誰にも気付かれないで侵入してお嬢様を攫って行った、と……」
護衛の彼は表情を険しくしてから、一つだけ可能性がある、と。
「一つの可能性? それは」
「影に徹している者の仕業、という事です」
お嬢様がロイスデン公爵家を訪れて公爵様が話していた存在のことだろう。だけど、ロイスデン公爵様はこんなことをする必要がない。だったら、他の公爵家が……?
それとも、公爵家とは関係ない家が育てた影の存在ということ……?
「これは、私共の主人に判断してもらう方がいいでしょう」
護衛の彼は可能性の話なのに、その可能性以外には考えられない、とばかりに公爵様に報告して指示を仰ぐことを決めている。
……でも、確かにお嬢様を攫った者を探すのに当てはないから、公爵様にお縋りするしかない。
兎に角、母を含めて皆を集めてお嬢様が攫われたらしい、と伝えよう。
「兄君が冷静になって下さるといいのですが」
護衛の言葉にハッとした。
お嬢様の兄上様が最近になってようやくご一緒になれたことを思い出した。離れ離れで暮らしていたガスティール様は、お嬢様と少しずつ亡き奥様と暮らしていた時のように仲睦まじく過ごそうとしていたのに。
「でも、話さないわけには……いかないか、と」
「それはもちろん、そうでしょう。ただ母君を早くに亡くされ、お嬢様と引き離され、祖父君と暮らしていたけれどその最期を看取られて苦労の連続だったでしょうから、お嬢様が攫われたかもしれない、と聞いて冷静では居られないでしょうが、冷静になって頂かないと、と思いまして」
そんなことを言う護衛の彼も、併しその手が僅かに震えていてお嬢様が攫われたことについて責任を感じていることに気付きました。
……お嬢様のことを大切に思って下さっているようです。疑って申し訳ないことをしました。
「お嬢様、ご無事で」
微かに呟いた私の願いは、護衛の彼には聞こえなかったでしょうが、護衛の彼からご無事でいるといいのですが、と聞こえて来て同じ気持ちを抱いてもらえたことは有り難い、と安堵しました。
「ネスが、行方不明とはどういうことだ!」
固い表情で皆さんを起こして、食堂にて事情を打ち明けたところ、皆さんが息を呑んで驚いた表情を浮かべて。
お嬢様の兄上様が、取り乱した声を上げたところでオズバルド様が帰還されました。
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