9-3 侯爵領追放
殆ど私がやることは無いまま、私の持ち物は纏まった。アズとヒルデの持ち物をまとめてもらうように指示して、ドアの向こうに立つヘルムに声を掛ける。
「ヘルム」
「どうしました?」
「オズバルド様を呼んでくれる?」
ヘルムは快くオズバルド様に声をかけに行った。お兄様は元々このお屋敷にまだ荷物を持ち込んでいないから使用人達を手伝うよ、と動いてくれている。
「ネスティー嬢。私に用だとヘルムから聞いたが」
急いで来てくれたのか、ちょっと呼吸が荒く髪も乱れているオズバルド様に笑ってしまう。そんなに急がなくてもいいのに。……でも、嬉しい。
「はい。オズバルド様にお願いがありまして」
「なに? 何でも……とは言えないけれど大抵のことは叶えるよ」
……サラリと言った言葉が怖いです。有言実行出来そうな公爵子息様、ですね。
「取り敢えず、私をロイスデン公爵領に連れて行ってください。私とお兄様とアズとヒルデを。ヘルムを含めた皆さんはロイスデン公爵家の使用人さん達ですから帰るだけですし」
オズバルド様が目を瞬かせて言います。
「そんなことでいいの? 全然構わないけれど、もっと何かあれば叶えられるよ?」
何かあればって言われて思い浮かぶような何かもありません。
「いえ。ロイスデン公爵家ではなく領地の方にお願いしたいのです。そこで今度こそ穏やかに平民として過ごしたいと思います。それで慣れたらどこか別の場所にでも行こうかと思ってます。先ずは、私が何を出来るのか、平民としてきちんと生活出来るのか、色々とロイスデン公爵領にて覚えていきたいので、当分の間、お願い出来ないでしょうか」
「ん? うん、まぁいいけど。それ、父上と母上も了承するだろうし、そうするとおそらく別の場所には行けなくなると思うけれど……」
私のお願いにオズバルド様が微妙な顔つきになる。領地に連れて行くのは構わないけれど、行ったら出られないよ、という事らしい。
「それは……その時考えます。今の私が皆の安全を考えた上で行ける場所なんて、ロイスデン公爵領以外思い浮かばないので」
そう。宰相子息様から侯爵領追放を宣告された私が、どこの土地に行くにしても、今回のようにやらかさないとも限らないわけで。
あちこちでやらかしまくってたら、宰相子息様の忠告を鑑みるに、オーデ侯爵家に目を付けられてしまう、と思う。
そうなると対抗出来る力を持つ家って何処なの? ってことで。私の知る限りはロイスデン公爵様くらいしか思い浮かばない。
抑々オーデ侯爵家は、侯爵という地位があるってことしか知らないから、どの家にどんな影響を与えるのか分からないし。下手に他家を巻き込むわけにもいかないし。
それならば、私の知る限りで対抗出来そうな力があるのはロイスデン公爵家だけなのだ。
かと言って、貴族でもない私が堂々とロイスデン公爵家のある王都の屋敷に顔を出すことなんてさすがに出来ない。ということで考えたのは、ロイスデン公爵領にて平民暮らしをする、というもの。
安全だし、平民として暮らすのもおかしくないし、私だけじゃなくてお兄様とアズとヒルデの身の安全も守れるし。アズとヒルデとお兄様に相談はしていないけど、誰も反対はしないはず。……というか、ロイスデン公爵領以外、安心して行ける場所なんて無いだろうと皆は納得すると思う。
この屋敷についても、ロイスデン公爵様にお願いしなくてはならないし。使用人さん達を貸してくれたこともお礼を言いたいし。
その上で図々しいお願いだけど、私達が安全に生活出来るよう、領地に住まわせてほしいって言うつもりだ。
そのためにもオズバルド様のご協力は欲しい。
「……分かった。私もネスティー嬢と一緒に居られることは嬉しいし、父上と母上も喜ぶだろう。確かに身の安全という観点から考えると我が家と我が領地は、おいそれと誰もが手を出せる場所ではない」
オズバルド様は私の言い分に納得したように頷いて、了承してくれる。
「では、よろしくお願いします」
「うん。明日が父上と定期連絡を取る日だ。ちょっと出かけるけれど明後日の朝には帰れる。父上に了承をもらったら明後日にはロイスデン公爵領に出立しよう」
……私が直接公爵様にお礼やらお願いやらを言いたい所だったけれど、今は目立つ行動を取らない方がいい、と思い直す。後でお礼を伝えよう。
それに、公爵様の許可を得る必要無しに勝手に領地にも行けないし、定期連絡は、どうやら直接公爵様に会う、或いは公爵様に近しい人に会うようなので、直ぐに許可を得られるとオズバルド様が請け負ってくれた。
うん、お任せしよう。
明後日出立なら、約束の三日に間に合う。
ホッとした。
お読み頂きまして、ありがとうございました。
 




