9-2 侯爵領追放
「此処で混乱していても、確定したことは変わらないですし、皆さん、纏められる荷物を纏めてしまいましょうか。このお屋敷はお嬢様の荷物を含めて少なく見えますが、纏めるとなるときっと時間が惜しいくらいですよ」
気を取り直したようにアズのお母さん・ヒルデが言う。
その言葉に背中を押されたように皆が動き出す。私も私の荷物を纏め始めましょう。アズを連れて自室に戻ろうとするよりも早く。
「皆さん、ご自分の持ち物だけで大丈夫です。ご存知かと思いますが、このお屋敷はロイスデン公爵様がお買い上げになられました。調度品からインテリアまで全てが公爵様のお声一つで揃えて頂いた物にございますから」
アズが素早く通達した所、皆さんがああ、と納得したように頷いて。今度こそ顔つきを変えて皆さんは動き出した。
私はアズとヒルデを連れて自室に戻り、ロイスデン公爵様が私のために、と準備してくれたドレスやワンピースを……どうするの? なんか皺が出来そうだけど……。
素早くアズとヒルデが綺麗に纏める。……えっ侍女ってそんな技も身につけているの? というか、何処からドレスとワンピースを仕舞うスーツケースが出て来た? いや良く見たら小物入れやら割れ物を丁寧に梱包していて……微妙に日本の知識が入り込んでいるこの世界でも梱包緩衝材は無いのに、新聞で上手く梱包してる……。
引越し業者もビックリの手際なんだけど。
つくづく思う。
ーー私、アズが居なかったら絶対生きていけない。
いや、なんとなくだけどそうなる前にロイスデン公爵様が私を拾いに来そうな気がするけど、でもやっぱり私の精神的な支柱はアズだから。
ーーアズが居なければ生きていけない。
「どうかしましたか、お嬢様」
「うーん。私アズがいなかったら生きていけない、と思ってね。でもそれはいつまで経っても自分の足で立てないことになるな……って考えてた」
アズが視線に気付いたのか私を見るので、私が素直に思っていたことを告げれば、アズはニコニコと上機嫌。
「いいんです、お嬢様はそれで。私は死ぬまでお嬢様にお仕えするつもりですから」
死ぬまで⁉︎
アズは私が成人するまで、とでも言うのかと思っていたのにまさかの死ぬまで宣言。さすがにちょっと驚く。
「あなた結婚もしないつもりなの? それに死ぬまでってお嬢様の嫁ぎ先まで行く、と?」
驚いて次の言葉が見つからない私。ヒルデが娘に対して呆れたようにそんなことを尋ねている。
「結婚は考えていませんが、もし結婚するならお嬢様を優先することを認めてくれる相手じゃ無いとダメ。お嬢様の嫁ぎ先に着いていくなんて当たり前ではないですか」
アズは至極当然とばかりにヒルデに応える。
あ、はい。アズさんはそこまで考えていたのですね。
思わずアズにさん付けしながら思う。
嬉しいとは思うけれど、果たしてアズの人生はそれでいいのか、とツッコミたくなるけれど。周りが何を言おうと決意は固そうだから取り敢えず、ありがとう、と受け入れておこう。
アズが結婚したくなった時に話し合えばいい。
私は結論付けてお屋敷を出て行く準備に没頭することにしました。
そこで、ふっと気付く。
ラテンタール家に居た頃は殆ど何も持っていなかった。今はこれだけの物が私の物、としてここにある。
公爵様がこれだけ私のために、と用意してくれたわけだけれど。……ここまでしてもらう価値が私にあるのか、と。
あのロイスデン公爵様だ。
さすがにオーデ侯爵家の血に流れる力を持つ私、だけで此処までのことはしない。何度か対面したけれど、それは確信出来る。
過去や未来が偶に断片的に見られる私の力にここまでしてもらう程の価値がある、とは公爵様は思っていない。
だからこそ純粋に“私”自身に対する何らかの価値で対価なのだと思うけれど。
……一体、どんな価値が私にあるというのかしら。
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