8-2 力の怖さ
「お嬢様の力について、私は知識として知っていましたが。……考えてみますと私は怖い、と思ったことが無かったですね」
アズが今までを振り返るように視線を空へ彷徨わせながら言葉を落とす。
「怖い、と思ったことが無かった……。そう、なの?」
「はい。多分、お嬢様がお一人になってすぐから殆どを共に過ごして来ましたから、お嬢様が怖いことは無いので、過去や未来が見えたとしてもお嬢様はお嬢様ですし、それが仮に私の死そのものを見たと言われてもそれを避ければ何とかなる、としか考えていなかったと言いますか……。だから特に怖いとは思いませんでしたし、寧ろこの目でその力を発現したことを知ることが出来て感動した、と言いますか」
アズの言葉に目を瞬かせる。
感動?
「それはアズさんの感覚なので。いいですか、お嬢。皆が皆、こんな感覚の持ち主ではないですからね?」
ヘルムがアズを見る目がちょっと変わった気がします。そして一語一語区切るようにヘルムが私に言い聞かせてきます。……まるでアズの感覚が一般的とは言えない、とでも言うようです。
アズもアズでヘルムをどういう意味で仰っているのでしょうね、と圧をかけて尋ねてます。
……アズ、自分が普通と違うことが心外なんだね。
ヘルムがあはははは……と誤魔化し笑いしてますが、それでいいんですかね。まぁあまり突っ込まないことにしましょう。
「話を戻そう」
あら、オズバルド様が珍しく仲裁役を務めました。
「アズ殿の気持ち、ヘルムの気持ち、義兄上の気持ち、それぞれネスティー嬢は理解出来たか?」
ぎけいうえ……ってなに?
オズバルド様が確認をしてきますが、私はオズバルド様が仰った「ぎけいうえ」という言葉が引っかかり反応が鈍ります。この場に居るのは私。アズ。お兄様。ヘルム。オズバルド様の五人。アズ殿はアズ。ヘルムはヘルム。私の力のことについて気持ちを伝えたのは、後はお兄様。……お兄様? もしかして「ぎけいうえ」ってお兄様のこと?
……あ、義兄上?
ようやく漢字が当て嵌まり理解出来ました。
えっ、でもなんで義兄上?
オズバルド様のお兄様では有りませんが。
義兄……って、あ、パートナーの兄は義兄か!
つまり婚約者である私の兄だから義兄? そういうこと?
「ネスティー嬢?」
「は、はいっ」
「どうした? 疲れたか?」
「い、いえ別に」
ぎけいうえの言葉が理解出来ずに悩んでました、とは言えなくて。オズバルド様の質問に首を振る。
「そうか。疲れたら言って欲しい。では、もう一度問うがネスティー嬢は三人の気持ちは分かった?」
三人の気持ち。
「はい。普通は怖い、という感覚を持つということですね」
「そう。私は怖いというより、私と婚約をしていることでネスティー嬢が死んでしまう夢を見た、と聞いてショックを受けたが」
「あ、すみません」
「いや。それを聞いて思ったのは、確かにネスティー嬢はいつ死んでもおかしくないような体型や環境だった、と思ったわけだ。だからこそ、私はネスティー嬢にお腹いっぱい食べてもらいたいと思った」
……そんなことを思ってくれていたんですね。
「ただ、私は力のことは兎も角として。ネスティー嬢はあくまでも普通の女の子だと思った。マナーや仕草は貴族令嬢として確かによく出来ているが、力が発現してもネスティー嬢は普通の女の子だと私は思っている」
「ありがとうございます」
「上手く伝えられているのか分からないが、君はチヤホヤされることを喜ぶような人でもないし、驕るような人でもないから。そのままでいいと思っている」
オズバルド様の言葉は拙いかもしれないけど、でもとても温かくて。私自身が必要以上に怖がることもないんだな、と思えました。
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