7-2 侯爵領を守る者
お兄様にお母様の話を詳しく聞きたい、とお願いするよりも早く。アズとオズバルド様とお兄様が居るのにアズの淹れてくれたお茶を飲んだらホッとして瞼が重くなっていく。
「えっ、ちょっとネス? アズだったよね、君。眠り薬でも入れたの?」
段々と襲い来る眠気に誘われて眠りの淵に落ちる所でお兄様の声がした。
「いえ。そんなことはしておりません。おそらくお嬢様はお疲れになられたのでしょう。このお姿でもだいぶお嬢様は太られましたが、これでもまだまだ痩せているように見えますでしょう。……つまりそういうことです」
アズの説明にお兄様が納得したような声を出してるけど、太られました……ってアズ、女の子に「太った」は失礼……
そんなことを思いながら身体が揺ら揺らと揺れ出した。なんだか気持ちいい。身体が温かい。誰かに背負ってもらっているのかなぁ……。
***
日の光が顔に当たって眩しくて目が覚めた。……目が覚めた、ということは寝ていたわけだよね。
えっ。夕食を摂った記憶もお風呂に入った記憶もない。……嘘っ。あのお茶会からずっと寝ちゃってたってこと? いやでも、記憶が無いからにはそういうことだよね……。
アズを呼んで身支度を整えてもらおう……。出来ればお風呂に入りたいけど、マトモに入れなかった伯爵家での生活を思えば、この屋敷に来てからはお風呂に毎日入れるだけで有り難い生活だし、お風呂の準備もお湯を沸かすことが既に大変だし、朝から入るのは……無理だよね。
身体を拭くくらいで我慢するべきかな。人並みの生活を送れるようになっただけ有り難いし。
そう思っていた私の寝室をノックする音に誰何の声を上げればアズ。入室許可を出して素早く入ったアズが一言。
「湯浴みの準備が出来てます」
……私の侍女、神か? それともエスパー?
「ありがとうアズ!」
「当然です。本日の午後には宰相子息様がいらっしゃるのであれば、身綺麗にしてお迎えするのは礼儀ですし、この屋敷の主人として、お嬢様の義務です」
……そうか、義務なのか。
「朝から準備してくれた皆には労いの言葉と、特別手当を」
それくらいしか思いつかないし。
「畏まりました。……お嬢様」
「なぁに」
「どのような結果になろうとも、私と母はお嬢様に着いて行きますから何処へなりとお連れ下さいね」
アズの牽制のような言葉に「……はい」 と大人しく頷くしかない私。ちょっとね、ちょびっとだけ、皆と別れて一人になった方がいいのかなって思ったのは思ったよ?
でも直ぐにその思考は消え去った。
だって。
「私、アズが居ないと生きていけないし。物の価値が分からないからお金の価値も分かってないし。お兄様が居るとはいえ、お兄様と二人だけで生活出来る程、私には生活力無いし。ご飯も作れないからね……。そして私に出来る仕事があるのかさっぱり分からなかったし、抑々私は私自身のことがよく分かっていないから。お兄様と二人で暮らしていても、私が自覚無いことをやらかしていたら、多分お兄様一人では私のことを取り繕えないような気がする」
「全くもって同意します。それだけお嬢様のご自身に対する自覚が出来たことは大変喜ばしく思います」
色々と気持ちをダダ漏れさせたらアズは一切否定してこないし。……やっぱり結構なやらかしを、私はしているんだろうな、と思うしかない。
……ごめんね、アズ。ご迷惑をおかけします。
***
そうして身支度を整え終えた私が食事を摂って午後に備えていると、いつの間にか打ち解けたらしいお兄様とオズバルド様が私の両隣に座り、私の背後にはヘルムが立つ。アズはドア付近で宰相子息様を出迎える。
そうして刻一刻と予定時刻が迫ってきていた。
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