6-2 使用人達のその後
「それで。王都の屋敷に居た使用人達の方だけど」
お兄様が改まった顔で切り出す。
私の顔をチラッと見たのは私の気持ちを考えて、なのだろうけれど。
「私が真に味方だと思えたのは専属侍女のアズだけですから」
お兄様はそうか、と一つ頷くと先ずは料理長は解雇だと言う。……確か異母妹だと思っていたあの子の本当の父親でしたっけ?
まぁ当然ですよね。確か後妻と一緒に捕えられたと言う話ですし。
次に執事のクリスと庭師のフォールですが。
「公爵様の話を全面的に信じたわけではないけれど、久しぶりに会って母上が居た頃とは違って、なんていうか……紹介状を貰えるのが当然、というような傲慢さが態度に表れていたから。結果的に公爵様の話を信じることになったよね」
お兄様はクリスとフォールのことを酷評した。
結論はもちろん紹介状無しになって、相当に抗議したらしいです。……公爵様が見ている前でお兄様に。
「そういう所が紹介状無しになった理由だよ」
お兄様の一言に、クリスとフォールは言葉を詰まらせたとか。それまでお祖父様の命を受けて良く仕えていたのにこの仕打ち、みたいなこととか、私のために苦労したのに何とも思わないのかとか、そういうことを声高に叫んだそう。
……本当にそういう所、ですね。
「本当にお前達がお祖父様の命を受けて良く仕えていたならネスティーがボロボロのはずがない。ネスティーのために苦労したとは言い掛かりだ。お祖父様はネスティーにあまり興味は無かったかもしれない。だが、貴族令嬢として最低限の暮らしは保てるように命じていたはず。自分の息子とはいえあんなのが父親ではネスティーが苦労するから、お前達が守れ、と言われていたのではないのか」
そう、お兄様は静かに詰ったのだそう。
お祖父様は私に興味がないとは思っていましたが、ある程度の暮らしの保障をクリスとフォールに命じていた。フォールは庭師だから仕方ないとしても、クリスは執事。伯爵の次に権限がある立場で、雇っていたのがお祖父様であるなら、父である伯爵を諫めることも可能な立場だったということ。
お祖父様が雇って居なかったとしても、主人を諫めるのも執事として使用人としての役目ではある。
……おそらくクリスはそれをしていなかったはず。
アズから窘める程度のことは耳にしていたけれど、執事という立場を辞さない覚悟で諫めている、とまでは聞いてないから。
この時点でお祖父様の命も守っていないし、私のために苦労もしていなかった、ということ。お兄様もその点に気づいて指摘をしたのだと思う。
「その指摘で漸く黙ったんだ。お祖父様と父との間で機を見てどちら側に付く方が自分の利益になったか考えていたのだろう、と公爵様に追及されて顔を真っ赤にしていた。事実を指摘されたのだろうね。それで伯爵家次期当主としての最後の役目として、王都の屋敷に居た使用人達は紹介状無しで全員解雇、の処分を下した」
お兄様がそう言葉を落とした。
後妻が入ってから後妻の権限でそれまで居た使用人達は解雇されている。紹介状が有ったか無かったかまでは、私も分からないけれど。
そうして後妻の権限で迎えた新たな使用人達は、殆ど私と顔を合わせなかったけれど、伯爵の色彩で伯爵に良く似た娘が居ることは、全員知っていた、はず。
……アズが伯爵自ら全使用人に通達していた、と言っていたから。
つまり私が存在していることを知っていたのに、何もしてこなかったのだから、それが伯爵と後妻の命令で逆らえなかったとしても、許されることじゃない、と紹介状無しでの解雇とした、と。
私は聖人君子ではないので、伯爵と後妻の命令に逆らえなかった使用人達に同情なんてしない。
それを受け入れたのは彼らの事情。ラテンタール家で働くことを選んだのは彼らで、理不尽な命令だと思ったのなら辞めれば良かっただけ。
お金のために辞めることはしなかったのなら、その時点で彼らは“命令”という都合の良い言葉を隠れ蓑に私への虐待を見て見ぬふりをした、伯爵と後妻の共犯者だとしか、私は思えないから。
“わたし”だけだったらこんな真っ黒な思考にはならなかったかもしれないけど、想像でしかない。今は“私”でその私は使用人達に対して同情なんて寄せないの。
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