6-1 使用人達のその後
お兄様が続けて話すには、まず褫爵の憂き目に遭った以上、ラテンタール家の使用人達は当然全員解雇。本来なら紹介状を夫人が書いて渡す。使用人の管理は夫人の役目だから。夫人が居ない場合は当主の役目となるが今回の場合、どちらも紹介状を書くなど出来ないし、出来たとしてもラテンタール家に勤めていた、というだけで受け入れられる可能性が低くなる。
とはいえ、当主も後妻も居ない以上、前伯爵も死去してしまったことから紹介状を書けるのは跡取りであるお兄様、ガスティールの役目。
でもお兄様は領地の屋敷にずっと居たから王都の屋敷の使用人達のことは分からない。そこでお兄様は執事のクリスから使用人達の話を聞こうとしたらしいのだけど。
「ロイスデン公爵様が反対したんだ」
なんで?
「ロイスデン公爵様が仰るには理由が二つ。先ずはラテンタール家のことをどこの貴族でも知ってしまっているから、紹介状を書いても断られること。
もう一つは、お祖父様に雇われていたのに、お祖父様の体調が悪化したら表向きは変わらないようにしながら、裏ではネスティーと距離を置いたこと。ハッキリ言えば見捨てたこと、だと言われた」
あー、さすが公爵様です。そこまで見抜いていたなんて。
「ネスが驚かないということは、見捨てられたと気付いていたのか」
「うーん。多分、そう、かなぁとは思いました」
「……そう。それも気づかなくて済まなかった」
「お兄様の所為ではないですから。もう謝らないで」
落ち込むお兄様を見ていられなくてお願いする。お兄様も分かった、と頷き、気を取り直したように話を戻した。
「それで、結局はロイスデン公爵様と共に使用人達の今後を決めた」
お兄様が仰るには、領地の屋敷に居た使用人達はお祖父様が病気になった頃から辞めていく者も居たし、お金が思った以上に貰えないことに不満を抱いて辞めてもらった者も居たから、残った使用人……つまりお祖父様が亡くなる直前まで居た全員に公爵様の名前で紹介状を書いてもらったとのこと。
ロイスデン公爵様の名前が出た以上、元ラテンタール伯爵家の使用人だったとしても、蔑ろにされることは無いから大丈夫、という公爵様の話に、お兄様は只管に頭を下げるしか出来なかったとか。
……まぁそうだよね。
ロイスデン公爵様の名前が出た時点でどこの貴族もラテンタール家の使用人だったとはいえ、門前払いは出来ないよねぇ。怖いもん。
でも公爵様が紹介状を書いても良い、と判断出来た者にしか書いてないだろうから、領地の屋敷に居た使用人達は、よくお兄様とお祖父様に仕えたのだと思う。
お兄様の味方になってくれる使用人達ばかりで私も安心した。……まぁだからといって、新しい職場が暖かく迎えてくれるかどうかまでは分からないけれど。
いくら公爵様の名前で書かれた紹介状とはいえ、内情をいちいち調べることはさすがに公爵様でもやらないだろうし。
……受け入れてもらったのだとしたら、新しい職場に上手く馴染むことを祈っておこう。それくらいしか私に出来ることなんて無いし。
交流があれば違ったかもしれないけれど、現実は私と領地の屋敷の使用人達に交流は無いので、あまり思い入れもないし、新天地で頑張ってね、くらいの気持ちしかない。
お読み頂きまして、ありがとうございました。




