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4 私は異物

 バケモノ


 私はバケモノ。

 そうか。バケモノなのか。

 ああそうだ。だって日本人だった頃だって同調しないと異物扱いされたわ。それに日本人だろうと異世界人だろうと、過去や未来なんて見える人がバケモノなんて、当たり前。

 魔法が使えるとか。人の心が読めるとか。過去や未来が分かるとか。周りと違う存在は全てバケモノに決まっている。

 だから私は父にも嫌われて憎まれたの。

 だって父が望む姿じゃなかったから。お母様に似てなかったから。

 そして今は、他の誰にもないだろう人とは違う血の所為で人が異物扱いされているの。

 私は父である人から異物として扱われ今は周囲から異物として扱われ。

 私はこの世界に居るべき存在じゃない、と突き付けられている。じゃあ私の居るべき場所ってどこかしら。

 どこ?

 どこなら私の在る場所?


「ネス、屋敷に帰ろうな」


 悪意に晒され怖がられ自分か異物な存在だと突き付けられ身を竦ませた私を、温かい声と優しさと大きな暖かい手が包む。

 殆ど別人のようで久しぶりに会って緊張していた私に気づいていたかのように、ニカッと歯を出して笑ったその人は。

 ーーお兄様。

 伯爵家の跡取りとして育てられたはずの人が、あんな笑い方をするわけがないのに。

 私の気持ちを解すように笑いかけて、そして今……

 暖かい手に包まれて私に寄り添って歩き出す。

 周りから何か言われているはずなのに、その声は届いても内容は聞こえない。私が私の心を守るために聞くことを拒否しているのかもしれない。

 だけど、お兄様の手の温もりのおかげで異物扱いされて息の仕方も忘れかけていた私は、呼吸が出来て歩けている。

 お屋敷までが遠く感じる。

 距離の問題じゃない。歩くスピードが落ちているのか、それとも私の心の問題か。

 バケモノ。

 まだ追いかけてくる声が、本物の声なのか私の心が聞かせている幻なのか。そんなことも分からない。私のことなのに私のことじゃないみたいで。

 いつの間にか屋敷に帰って来ていて。先程お兄様を待っていた応接室のソファーに座っていた。


「ネス、お茶でも飲む?」


 ぼんやりとしていた私の耳にお兄様の声が聞こえてきた。コクリと頷く。


「君、ええと」


「アズと申します」


「アズ、お茶を」


「畏まりました」


 そんなやり取りが聞こえてきてハッとする。


「ま、待って、アズ、行かないで!」


 アズが出て行ってしまう、と焦った私。アズが驚いた顔をして応接室のドアから出ようとしたのをやめる。


「お嬢様、私は何処にも行きません。お茶を淹れてきますからお待ち下さいね」


 優しく告げられて「お茶……」と私は繰り返す。アズがにこりと笑って「そうです、お茶です」と繰り返す。


「待っていてくれますね」


「待ってる」


 そうだ。アズが私を置いて何処かに行ってしまうなんてことは、ないのに。アズは私にお茶を淹れてくれる。それだけなの。


「ネス、ネスティー、良い侍女がいるね?」


 お兄様がいつの間にか隣に座る。


「うん」


「俺が居ない間、彼女がネスを守ってくれていたんだね」


「うん」


 お兄様、俺って……。貴族だと私って一人称を男女問わずに使用すると思ってた。


「ずっと、ネスティーの側に居られなくて済まなかった」


「お兄様は、悪くない」


「守ってやりたかった」


「それも、お兄様のせいじゃない」


「でも。こんな痩せて傷痕が残るような……そんな生活をさせるつもりなんて、なかった」


 お兄様の声が震えて。震えながら手を握って背中を摩って頬を撫でて頭を撫でる。


「それも……お兄様の責任じゃ、ないよ」


「それでも。可愛い妹で、母上ともネスティーを守ると約束したのに」


 そんな約束をお母様と交わしていたなんて知らなかった。お兄様はお母様との約束を守れなかったこと、私を守れなかったことを後悔しているように思う。

 でも。

 そんなのお兄様の所為じゃないし、責任を感じることでもない。

 父だった伯爵様が悪いのだから。

お読み頂きまして、ありがとうございました。

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