2-3 お兄様登場
お母様と同じ髪と目の色をした華奢で病弱な雰囲気の美少年……は、どこに行ってしまったのか。
現れたお兄様はニカッと豪快に笑い髪はお母様の明るい透けたような色よりも濃くハッキリとした色味に変化していて。目の色が変わってないのは当たり前だとしても、筋肉で着ている服がちょっとパツパツしているみたい。胸元など多分ボタンが止まらなくて上から二番目までボタンが開いている。……サイズの合った服が無いのかしら。
お母様に似たサラサラだったはずの髪も硬質な感じがするし、白い肌が変わらないのは日焼けをし難いからかもしれないけれど、全体的にゴツゴツした印象を受けて、華奢? 病弱? 何それ? という……
でも、それ以上に。
(待って。待って。この人と何処かで会ったことがある。どこで? つい最近……)
この顔、姿。
どうしてもどこかで会ったとしか思えない。
そんなわけがないのに。
どこで? 私はどこで会ったの?
思い返してハッとする。
「アズ!」
私の側に控えている彼女を、まるで遠くから呼ぶような大声で悲鳴を上げるように呼ぶ。私の呼び声に只事ではない、と判断しただろうアズが力強く「はい」と応える。
「アズ、今日! あの夢は今日の出来事だわ!」
私の叫びにハッとしたアズは淑女教育を私に施す程に素敵な淑女姿を放り出すように駆け出し、ドアの外で私の護衛をしているはずのヘルムに命じる。
「お嬢様の夢は今日の出来事だそうです! 直ぐにっ」
「分かった! オズバルド様に伝えるっ」
お兄様の姿・服装は、馬車の事故の時に幼い兄弟に駆け寄る人と全く同じ服装に姿だった。
きっと、私に会った帰りにあの広場近くの大通りを歩いていて事故に遭遇したのだと思う。
ーー私は夢で、大人になったお兄様にお会いしていたということ。
「おにい、さま、ですよね……?」
「うん。ネス。そうだよ」
ネス。ネスティーという私の名前を愛称で呼ぶのはお母様とお兄様だけだった。
「長く会ってなかった、のに」
「分かるよ。可愛い妹だ。そして……ネスティーは母上の血を引いてしまっているんだね」
お兄様が可愛い妹と言い、続けて放った言葉にハッとお兄様をマジマジと見た。
「お兄様……は、ご存知だった、のですね?」
「母上も少しだけ、未来が見えた人だったんだよ。でも詳しい話は後だ。これだけ焦るということは大きな何かがあるんだろう?」
「……はいっ」
「私も行こう。ネスの兄だし、母上の息子だからね」
それはまるで、それが使命だとでも言うような。
お兄様が差し出す手に手を乗せてアズに着いて来るように頷いて。ドアの向こうで私を護衛しているヘルムにも目を向けて。
私はお兄様と一緒に屋敷の外へ出る。アズもヘルムも止めないのは、私とお兄様の会話を聞いていたから。
二人共、お兄様の言葉に何かを感じたのだと思う。……多分、私と同じく“使命”だと思ったことだろう。
それなら邪魔をするわけにはいかない、と判断したのか二人は黙って着いて来る。そんな二人がとても頼もしく思えて。
人を頼ることの意味が改めて分かった気がした。
お読み頂きまして、ありがとうございました。
兄が3章で出てくる予定だった時は、ちょっとだけで活躍は4章からの予定でした。
大まかな流れは変わらないので此方の方がスッキリした登場となりました。




