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5-1 間話・アズの忠心

 一応お嬢様の血縁者である、礼儀も知らない小娘がお嬢様の元へ向かったことに気付いたのは偶然でも何でもない。そうなるだろう、と予想がついていたから動けただけ。でもお嬢様の専属侍女の私がお嬢様の元へ駆けつけようとするのをこの伯爵家の使用人達は許さない。執事長であるクリスさんと庭師のフォールさんは、前伯爵様が雇った方。昔、奥様が生きていた頃は前伯爵様が雇った使用人も大勢居たけれど、あのクズ……じゃなくて伯爵が後妻を迎えた時に、後妻が奥様の事を知っている使用人達を殆ど解雇した。クズ……じゃなくて伯爵は全く止めなかった。妻が使用人の雇用も解雇も権限を持つのは当然だから……と。


 執事長のクリスさんの解雇には、さすがにクズ……じゃなくて伯爵は止めた。それはそうだろう。伯爵家のことをよく知っていて執務の手伝いも出来るのだから。庭師のフォールさんを後妻が解雇しようとしたのもクズ……じゃなくて伯爵は止めた。フォールさん無しではこの伯爵家の庭を整える事は困難だから、というが一つ。フォールさんは一人で管理したいから、というのが二つ目の理由だろう。ケチな伯爵だからフォールさんを解雇して何人もの庭師を雇うより、このままフォールさん一人で庭を管理して欲しいのだろう。


 そして私は。

 前伯爵様に雇われたのは確かだけど、紹介してくれたのが宰相補佐という偉い方だから。クズ……じゃなくて伯爵は身分が下の者を見下す人間であり、身分が上の者には頭を下げる人間。宰相補佐なんてただの伯爵より上だし、成人して平民になったとはいえ、元侯爵家の次男なのだから、そちらでも上。尚、領地無しの爵位持ちで子爵位を持つお方。子爵という身分だけならクズ……じゃなくて伯爵より下だが、元々が侯爵家の出身かつ宰相補佐なのだから逆らう気はない、ということで。


 私は奥様が亡くなられてからもお嬢様の専属侍女として前伯爵様に雇われたまま。クズ……じゃなくて伯爵も後妻も簡単に私を排除出来ない。クリスさんとフォールさんは現在の伯爵家のアレコレを前伯爵様に定期的に報告をしているみたいだけど、お嬢様の兄である跡取り様を保護しているから、お嬢様に手を伸ばせないのか、手を伸ばす気が無いのか。前伯爵様は様子見だと判断しているらしく、クリスさんとフォールさんは積極的にお嬢様を手助け出来ない。厳つい顔のフォールさんも表情が一切動かないクリスさんも、お嬢様のことは気にかけておいでだけど、雇い主の意向には逆らえないから、お嬢様に何かある時以外は手を出さない。


 お嬢様の怪我が酷い時に医者をこっそり手配するクリスさんとか、トイレをこっそり使わせるくらいしか出来ないと嘆くフォールさんとか、私は知っている。


 お二人のそういった所も含めて私が報告するのは前伯爵様ではなく、奥様のご実家だ。今の当主は亡き奥様の弟にあたられる。その方に報告書を定期的に書いている。お嬢様から見て叔父にあたられる当主様は、お嬢様を助けたいと思っているものの、奥様が亡くなられてから直ぐに後妻とその娘を迎えてしまったクズ……もうクズでいいわね、面倒だもの。クズの所為で簡単に伯爵家を訪ねられない。奥様が生きているか亡くなられても後妻が居なければ顔を出し易かった当主様も、新たな家族が居るところに前妻の弟が顔を出すことは気遣いが出来ないことになってしまう。だからお嬢様を助け出したくても助け出せない事に苛々しているみたい。


 私もあんなに暴言を吐かれ、暴力を振るわれて怪我ばかりのお嬢様を見ていたくない。助けたい。でもお嬢様は健気にも病気じゃないからマシだし、一応伯爵令嬢に相応しく勉強させてくれるし、マナーも身につけさせてくれるし、ご飯も食べさせてくれるから、大丈夫だと笑うのだ。


 絶対、大丈夫なんかじゃないのに。


 貴族の令嬢がこんな目に遭う事が抑々おかしいのに。

 貴族の令嬢は最終的に生家にとって良い縁を結ぶ事こそが役割。それが簡単に言うと政略結婚。恋愛結婚も今は推奨されているけれど、まだまだ政略結婚が主流。だからこそ、普通は大切に育てられるというのに。お嬢様は痩せているのを通り越して骨と皮と少しの肉。掴んだ手首は強く握ると折れてしまいそうな程に細い。こんな伯爵令嬢なんて他は居ないだろう。


 怪我がきちんと治らなかった身体だけど、病気が無いことは私も少しだけ嬉しい。でも前伯爵様は何を考えているのだろう。お嬢様がこんな目に遭っていることを報告されているだろうに。せめて私だけはお嬢様の味方で居ようと思う。

 だからこそ、こんな足止めに関わっている場合じゃない。


「退きなさい! あなた達知ってるはずよ! 私は宰相補佐様から紹介されて前伯爵様に雇われているの! 分かってます⁉︎」


 私の言葉に全員怯んだのでその隙にお嬢様の元へ向かう。全く、身分制度のある国で私の後ろ盾が誰か分かっているくせに無駄なことをする人達ね。

お読み頂きまして、ありがとうございました。

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