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12 間話・自覚のない婚約者〜オズバルド視点〜

 父上と母上から了承を得て、アズ殿に嫌そうな顔をされながらもネスティー嬢と共に暮らし始めて暫く経つ。私のやらかしを父上に報告した時は、呆れた目を向けた父上の隣で、笑いながら空気が黒い母上を見た時。

“あ、私は今日死ぬ”

 と、本気で思った。

 ……それくらい、母上の怒りは怖かった。父上がネスティー嬢を気に入っていたことは分かった。だが、それ以上に母上が気に入るなんて思っていなかった。

 母上は、なんて言うか。その、良くも悪くも好き嫌いがハッキリしている所は好ましいのだが、母上が気に入る夫人や令嬢なんてこの世に何人存在するのだろう、と思うくらい、好き嫌いがハッキリしている。

 母上の中では友人と知人の区別がくっきりとしていて、向こうは母上の友人だと自負していても、母上が友人として認めているとは限らない間柄の夫人の多いこと。母上がハッキリと友人だと認めているのは、我が国の王妃殿下と同じ公爵家の夫人が二人。侯爵・伯爵・子爵・男爵の夫人が一人ずつの七人のみ。

 母上曰く本当に友人だと思える相手が七人も居ることが奇跡みたいなものよ、だったが、言っていることの意味は理解出来る。王妃殿下と公爵夫人二人は兎も角、その他の四人は母上より身分が下だから、遜る可能性もあるし、或いは忖度することしか考えないかもしれない。

 身分差があって、その身分を弁えつつも媚びないで付き合おうと思える人がどれだけ居るのか、私もよく知っている。それだけ人付き合いに厳しい母上のお眼鏡に、ネスティー嬢が適っているとは思っていなかった。

 母上にきつくアレコレ言われたが、神妙に聞いて何とかネスティー嬢と共に暮らすことを認めてもらうのと同時に、父上からは、ネスティー嬢はあんな家で育ったから、自分がオーデ侯爵家の血を引いていることの価値を理解していないことを教えられた。


「だから、守り切るつもりで一緒に居なさい」


 それは、父上から託された言葉。

 あまりにも重くて、私はその重みに耐えられるのか、自信がなかった。ただ、どうしてもあんなに痩せているあの子を守りたいとは思っていた。

 そのために、守り切る。その気持ちで頷いた。

 父上の懸念は直ぐに訪れた。

 ネスティー嬢は宰相が当主で実際には代理として子息が治める侯爵領に富裕層の平民として暮らし始めたが、動けるようになってから市場調査と称して平民生活を調査していたはずなのに、ちょっとした発想で停滞していた店の売り上げ向上に貢献した。思いつきなのだがその発想そのものが、他の誰でもないもので。

 いや、きっと切っ掛けがあれば誰にでも思いつくかもしれない。けれど思いつかなかったことを思いついていくつかの店の売り上げを向上させた。

 正直なところ、ネスティー嬢のことを見縊っていたと思う。いくらオーデ侯爵家の血をひいていてもまだ目覚めたばかりだから、大した影響はないだろう、と。

 ネスティー嬢のお母上のご実家であるオーデ侯爵家。

 あの家の女性に時折現れる過去や未来を垣間見る力を得た者は同時に現在でも何某かの影響を与える。

 それはなんなのか、誰も知らない。

 高位貴族の家の者はこうしてオーデ侯爵家について学ぶ。

 いつ現れるとも知れない人智の及ばない能力を持つ女性が現れた時に、手助けをしたり監視をしたり、勝手に利益を得るようなことがないように。

 私も勉強した時は、このような人がいるものか、と思っていたものだったが、ネスティー嬢に会ってしまえばそのようなことも言ってられず。

 そして実際にネスティー嬢の持つオーデ侯爵家の血を実感してしまえばもう認めないわけにはいかない。

 そうしてネスティー嬢の力の片鱗を見せられ、私は思った。


 ーー自覚がないということは、恐ろしいのだと。


 ネスティー嬢は、その発想力について、大げさだと思っていたようで、いまいち注意されていることがよく理解していなかったように見えた。

 だからこそ、あまりその血に任せてネスティーか嬢の好きにさせ過ぎてはいけないことに気付いて三人で撤退を促したが……。

 ネスティー嬢が望む平凡で平穏な平民生活は、到底送れそうもない。

 そのことをアズ殿が教え諭すのを見て、ようやく少しだけネスティー嬢は、自分の価値を理解したみたいだが。さて、この後はどうなるのか私にも見当がつかない。

 私は、ネスティー嬢を守り切れるのか、自信が無くなりそうだった。だが、そんな事も言ってられない。

 もう起こってしまったことは仕方がない。

 ネスティー嬢はいいことをしただけ。こんなに騒がしくなるとも思っていなかったはず。

 だったら私は守り切る努力をするしか、ないのだ。

お読み頂きまして、ありがとうございました。

第三章終了です。

次章【侯爵領追放編】まで暫しお待ち下さい。

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