11-1 自覚が無いことは怖いそう
無言での帰宅後、アズは一同を集めました。
一同? 使用人少ないけど、でも仕事していた皆さんの手を止めてまで集めたってどういうこと?
というか。私達が帰った後から屋敷に入って来た護衛さん達を見るに、今日のお散歩というか市場調査に着いてきていたようです。いつも有り難うございます。でも、護衛の皆さんも深刻な表情です。本当になにごとでしょう?
「お母様、ロイスデン公爵様から紹介された使用人方、護衛方、先ずは謝らせて下さい」
アズが頭を下げた。
……アズが頭を下げたのです。
謝る。
謝罪。
罪を、謝る。
……何故かゾワリと背筋に何かが走ります。
アズに頭を下げさせることは、それは、私、なんじゃないでしょうか。
「あ、アズ……。私? 私が悪いの?」
ヘルムから下ろされて頭を下げるアズの元に足を動かす。アズは少し困ったように笑って、でも、否定しない。否定を、しない。
「お嬢様。私はお嬢様のことを見誤っておりました。元々、お嬢様は物覚えが良くて教えたことを直ぐに覚えてしまうことは分かってました。記憶力がいいわけです。だから色々教えて参りました。そこからアレコレと発想力も身に付いたのは、あの伯爵家で生き残るための手段だったと思います。
ただ、お嬢様が亡くなったお母様の血を受け継いだことからこんなにも発想力に特化するとは思っておらず。それ故にお嬢様に制限をしてこなかったのは、私の間違いでした」
つまり、私は。アズに頭を下げさせるほど、色々とやらかしているということ……?
「お嬢様が貴族令嬢のままだったなら、身分がお嬢様をお守りしてくれたでしょうが、お嬢様は平民に身分を移されました。ロイスデン公爵様は、そのことを危惧して護衛をつけてくれ、オズバルド様を寄越して下さいましたが……」
「守りきれない程に、私がやらかしているってこと、なのね?」
アズの言い淀んだ先を理解する。
アズは肯定しないけど否定しない。否定しないということは肯定と同じ。
……なんて事だろう。前世の知識でちょっとだけ良くなればいいなって程度のことを口にしただけなのに。
「ごめんなさい、アズ……」
「いえ。これはお嬢様の成長ぶりを見誤っていた私の責。お嬢様の成長を本来は喜ぶことなのに」
手放しで喜べない、ということ。
「お嬢様、自覚が無いことが一番怖いのです。でも、もう自覚されましたね?」
私を諭すように口にするアズに頷く。次からは、必ずアズに相談する。
「次はアズに相談する」
「はい。お願いします。でも、もう此処には居られないかもしれませんが」
肩を震わせてアズを見る。そんなに? そんなにも私は拙いことをやらかしたのだろうか。
「アズ」
「お嬢様は良かれと思って助言されただけでしょう。もちろん店が繁盛することは店にとって良いことです。ですが、その分だけまた何かあればお嬢様の発想を頼みにする可能性もあります」
ハッとした。
それは目立つことを回避したい私の生活を脅かすことにならないだろうか。
「また、お嬢様のことを見た人は何人も居ます。髪の色を変えようと、両親の居ないお嬢様は、それだけで目立ちます。お嬢様が元貴族であることが知られることから起こる“何か”があっては困るのです」
それは、私が貴族だったことで利用することを考えたり、オーデ侯爵家という特別な血を持つ私を旗頭にして何か企まれたり、ということ。アズが何度かその可能性を教えてくれていたのに、私は全く理解していなかった。
だからこそ、アズに頭を下げさせるまでの状況に陥ったのだから。此処までされないと、本当に理解出来なかった私の頭は危機管理能力が無い、ということだったわけで。アズや公爵様の危惧を何ともないかのように、気持ちを踏み躙ったのは、私だ。
「アズごめんなさい。理解しているつもりで、つもりだっただけ。本当に理解していなかった」
アズが皆を集めたのも、私だけでなく皆の命もどうなることか分からない、ということ。皆を危険に晒したことを、理解していない私の代わりにアズが頭を下げてくれたことも、私は後悔した。
お読み頂きまして、ありがとうございました。




