10-5 市場調査再び(?)
オズバルド様は完食されました。
……凄いです。素直に敬う心を抱きました。
「ネスティー食べなかった?」
「一口食べましたが、疲れて眠くて仕方なくて無理でした」
甘すぎて無理、とハッキリ言えませんからそのように当たり障りなく答えました。
「そうか」
オズバルド様は何故、私が食べられなかったのか、その理由を聞く事が多くなった。歩み寄ろうとして下さっているのだと思う。
それはとても嬉しい。
そうほっこりした気持ちの私の隣に、アズが座りました。伝えてきました、と言うアズに頷きます。オズバルド様は完食されましたから美味しく感じたのかもしれませんし、敢えて私が思ったことは言わない方がいいでしょう。
「オズバルド様は美味しかったみたいですね」
「ん? ああ、いや。ちょっと甘すぎるとは思ったが、頼んだ物を残すのは失礼かと思って食べきった」
あ、私も勝手に決めつけていましたね。
オズバルド様は甘いもの大好きな人ではなく、礼儀として残さず食べた、ということみたいです。確かに残すのはもったいないし、作った方にも失礼な気がします。……でも、この生クリームは暴力的に甘かった(私の感覚ですが)ので食べ切れる自信がないです。
申し訳ないけど、残しましょう。
……と思っていた所へ。
「あ、あの、失礼します」
勢い込んだ人がやって来ました。店員さんです。なんでしょうね?
私が受け答えをするのではなく、アズに任せましょう。まだ口の中が甘い気がしてダメなんですよ。
「何か」
「具体的な生クリームの作り方を教えて下さりありがとうございますっ」
どうやら、所謂パティシエさんのようで。
生クリームを試しに使ってロールケーキを作ったけれどイマイチ評判が良くなくてどうしたらいいのか悩んでいたそうです。……いや、誰かに作り方を聞けば済む話でしょうに。
で。
これから教わった方法で生クリームを作るから、待っていてもらえないか、というのでアズの視線を受けて頷きました。これくらいのアイコンタクトは出来ますよ。
そんなわけで、もう少しまったりとこの喫茶店で過ごすことが出来そうです。今度はアールグレイじゃなくてセイロンティーにしてみました。ダージリンは癖がないのでストレートで飲みますが、セイロンは人によってはストレートが苦手な方もいるもので、特にウバはミルクティーがお勧めとも言いますが、私はストレートで大丈夫です。
それにしてもセイロンってスリランカのことなのに、国どころか世界が違うのにあるんですね、此方に。産地別もあるので有名なウバもあります。
……いや、深くは考えないことにしよう。全ては日本人作家が考えた小説に似た世界のお話、ということで。
つまりまぁ放置してセイロンティーの一つウバを楽しんでいたわけです。そうしたら、店の外から入ってきただろう走ってきた足音が聞こえてきました。
「じ、嬢ちゃんっ」
……さっきの文具店のおじさんです。
「さっきは色付きペンをありがとう」
「おう、いいってことよ! じゃなかった! 嬢ちゃん、あんた賢いなぁ! 嬢ちゃんの言うように子ども連れの客が来たから子どもに色とりどりのペンで文字を書くように伝えたら、面白がって、ありがとうだの、自分の名前だの書き出して、ペンが売れたのよ! さすが子どものことは子どもがよく分かってるな! 嬢ちゃんがこの店に入ったのは店の中から見えてたからよっ、もし、まだ居るなら礼を言っておこうと思ってなっ! 嬢ちゃん、ありがとよっ」
言いたいことだけ言ったおじさんは、来た時のように走って帰りました。あれです。これこそ嵐みたいなという表現そのものの人でした。
……なんて、のんびり考えていた私は、隣のアズと向かいにいるヘルムとオズバルド様の三人でアイコンタクトを取っていたことに全く気付いていませんでした。
そうして。
まったり過ごしながらパティシエさんが持って来た生クリームは、変に甘すぎない上に、しっかりと固まったので、これならロールケーキを出す時も溶けることはないだろう、と頷いた所で、サッとアズがお会計をしてヘルムが私を抱き上げ、オズバルド様がサッサと店を後にしたのに続くように、私を抱っこしたヘルムも店の外に出て来て、すぐに後を追ってアズも出て来て、私に何も話さないで屋敷へと帰還することになりました。
……なにごとでしょうね。
お読み頂きまして、ありがとうございました。




