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10-3 市場調査再び(?)

 なんだかんだで気になったお店の入り口でウロウロしてアズを待つ。程なくちょっと難しい顔のアズが戻って来た。


「どうかした?」


 アズが私の顔をマジマジと見る。


「実は」


 食器店は私の言葉をヒントに、誰でも使い易いカトラリーを作って販売した。売れないかもしれないと思っていたが、大人も子どもも赤ちゃんも老人も、という思いだったようで。販売してみたら、かなりの売れ行きとなってしまった……らしい。

 家具店の方も脚の取り付けの簡単なテーブルをヒントに片付け楽々なテーブル、というキャッチコピーやら椅子も高さを調節出来る、とした所、かなりの売れ行きとなってしまった、とか。


「へー」


 としか言いようが無いので相槌を打つと、アズが困ったように笑った。


「お嬢様、これがどれだけ大変なことか……分かっていらっしゃいません、よね?」


「うん。あんまり実感してない」


 ヘラリと笑う私。


「まぁ兎に角。お嬢様があの二軒の店に近づくと、目立つ可能性が高いので、近づかないようにしましょう」


 アズの困り顔にうん、と頷き、ではどうしようかというヘルムの問いかけには、鞄店や文具店や食事処と行ってみたい所を口にする。近い店が文具店だったので其方へ足を運んだ。

 文具店は客は居なくてのんびりと店内を見ていたら、黒一色のペンばかりで色付きのペンが無いことに気付く。よくよく見たら赤・青・緑などの色付きペンは店内の端に纏めて放置されていた。

 放置、の一言に尽きる。

 何しろ一本一本に値段を付けているわけではなく、五本、まとめ売りやら十本まとめ売り、のよう。

 コレには、私が凹む。

 日本人の学生だった頃。

 何を隠そう、ノート書きの美しさに定評をもらっていた。もちろん主観はあるだろうけど、定期試験前は私の作った定期試験対策用のノートが綺麗で読み易いし理解しやすい、とよく言われていた。

 そんな綺麗なノート作り(年齢が分かるなぁ……)をして定期試験を乗り越えて来た身としては。

 色付きペンがセットまとめ売りをしているのを見ると、嘆かわしくなってしまう。これはペン達を救わねばならない、と妙な使命感に囚われてしまいました。


「ねぇねぇおじさん」


「おう、いらっしゃい、嬢ちゃん」


「あっちにある色付きペンなんだけど」


「売れ残りがどうかしたか」


「売れ残り?」


「ああ。もう三ヶ月もあのままだ。邪魔でしょうがないのさ」


「じゃあ私に頂戴」


 店主らしい男が目を白黒させているけれど、願ったり叶ったりなのだろう、喜んで売ってくれる。とはいえ三ヶ月放置された色ペン。書けるのか知りたいので、試し書きをさせてもらうことにする。不要な紙に線を引いてみて。出来栄えが良いのかどれも書ける。

 ついでに、ずっと黙って私のやりたいようにやらせてくれていたアズとヘルムとオズバルド様に、名前こそ書かなかったが“ありがとう”と赤・青・緑・黄・桃の5色で書いてみた。私のやる事を何となく見ていた店主は、驚いた顔をする。多分、一文字ずつを違う色で書くなんて発想が無かったのだろう。


「ねぇねぇおじさん。例えばなんだけど。私が買ったこの色付きペンは、返さないけどさ。それでもまだあれだけの数があるでしょう? まとめ売りをしていても売れないからさ、さらに少し安くしてみたら?」


「それをすると、作ってくれた職人に悪いからよ」


 ……成る程。まとめ売りをしていても、単価よりあまり値下げしていないことに理由があったようです。


「じゃあさ、私のコレみたいに、子ども向けに売り出しすればいいよ。例えばお父さんお母さんに、色付きペンでお礼を書いてみよう、みたいな感じで。そうしたら珍しくて買いたくなるかもしれないよ」


 この提案には、店主が考え込む。

 そんなもので売れるのか分からないのは確かだろうが、一文字ずつ色を変える、という発想はなかったから、具体的にやってみたら確かに売れる可能性もあるかもしれない。

 どのみち置きっぱなしで売れ残ってばかり。ヤケクソにやってみてもいいかもしれない。

 ーーそんな思惑で店主は話に乗った。


「まぁ試してみるよ」


「そうして」


 じゃあね、と私は店主に手を振って、この色ペンで何を書こうか今からワクワクしていた。

100話です。

いつもお読み頂きまして、ありがとうございました。

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