成人男子の葛藤 ~side R~
すみません、本当は書き上げてからupするつもりだったんですが、予約投稿を消すのを忘れて1話だけアップしてました…。
取り敢えず出来てるとこまでupしますね。
「で、どういうつもりなのよ?」
据わった目でこちらを見ている女をじろりと睨みつける。
「で、ってなんだよ、でって」
全く意味が分からない。どうして、休日にまでこいつの顔を見ないといけないのか。
ちなみに今は、朝起きて、出かけるまでの間に軽くジョギングでもしようと扉を開けた瞬間だった。こんなに朝早くから人ん家に来るなんて、こいつ一体何考えてるんだ。
扉の前で軽く睨み合っていると、キャサリンがわざとらしく頭に手を当ててため息を吐く。
「全く、情報提供者で、二人の付き合うきっかけを作ってあげた私に対してそんな態度とっていいのかしら?」
「…それとこれとは別だろ。朝早くから用件はなんだ」
「仕方ないでしょ!旦那が出勤するまでしか時間取れないんだから。全くわざわざ来てあげたことに感謝してほしいくらいだわ」
キャサリンは図々しくも、部屋に上がり込んで茶を要求した上に、横柄にソファに足を組んで座っている。再び、訪問の目的を尋ねる俺に、キャサリンは昨日聞いたという、アイリスの話をする。
「で、どういうつもりなのよ?」
促され、瞳を逸らす。そこに多分に含まれた好奇心の色に忌々しい思いになりながら。
しかし、まさかアイリスがそんなことを考えていたとは…。口元を隠して声にならない声を抑える。
「正直に言わないと、アイリスにあることないこと言い触らすわよ」
「あぁ!?」
こいつならやりかねない。観念して、舌打ちしながら、早口で呟く。
「だって、やっと付き合えたのに…手を出して泣かれでもしたら立ち直れん」
「はぁ!?このヘタレが!」
キャサリンは眉を吊り上げて、大声を上げるが、冗談ではない、下手に手を出したら暴走する気しかない。
健康な成人男子の募りに募った欲望を甘く見るなよ。ちょっとだけ、とか、小出しにとか絶対無理だ。相手は筋金入りの恋愛音痴で、そうでなくても俺に対する興味が薄い。こちらが迫ったら全力で引かれる未来しか見えない。だからもう、いっそ後戻りのできない状況になるまで―――結婚宣誓を済ませるまで我慢してやろうと思っていた。
本当は、触りたいし、抱き締めたいし、ちょっと口にはできないことだって色々やりたいに決まっている。でもダメだ。俺はあいつの涙に相当に弱い自覚はある。
泣かれたらへこむだけじゃすまない気がする。
ぶすっとした表情の俺に、キャサリンはわざとらしくため息を吐く。むかつくな、この短時間で何回目だ。
「はぁー、分かった。アイリスには気にすんなガンガン行けって言っておく」
「あぁ!?ふざけんな!」
「どっちがふざけんなよ!しょうもないことでモダモダ言ってる暇があったらさっさと一発やっておしまい」
「な、な、な、お前、女じゃねぇ……!」
「ふん!あんた相手に女出してどうすんのよ!」
キャサリンは鼻息荒く言い捨てると、来た時同様嵐のように去っていった。俺はそれを呆然と見送ることしかできなかった。