心動く~SideR~
強ばったアイリスの顔に、冷や汗を流すことしかできない。
どこまで聞かれた?いや、直前俺は何を言った?
これまで、頑なにアイリスを愛していることを認められなかった反動か、本人を前にすると言葉が出なくなる。それこそ、付き合いを申し込んだ時くらいしか、素直に気持ちを伝えていない。もちろん、あまり気持ちをダダ漏れにすると、歯止めが利かなくなりそうだったということもあるのだが…。
それをこんな……物の弾みみたいに聞かれてしまうとは……!
そして、キャサリンを通して動向に逐一探りを入れられていたなど、知って気分の良いものではないだろう。
どうやって言い訳したものか……俺の頭はこれまでに無いほどの勢いで回転していた。
「あーあ、ばれちゃったわね」
膠着状態を破ったのは、キャサリンの間の抜けた声だった。何を言う気かと、ぎっと、彼女を睨み付けると、鼻で笑われた上に肩を竦められた。
「ルーク、あなたこの期に及んでアイリスをどう誤魔化そうか考えているのだろうけど…この状況、客観的にどう見えるか分かってる?」
「…客観?」
意味を取りかねて、ポカンとした俺に構わず、キャサリンはアイリスに顔を向ける。
「誓って私はルークとやましいことなんか無いわ。貴女に隠さなければならないような話なんてね。こんな男より、アイリス、貴女が大事よ」
アイリスはキャサリンの言葉の真意を覗き込もうとでもするかのように、じっと彼女の目を見つめていた。
場違いだと分かっていながらも、普段のキリリとした様子とは違う迷子の子どものような幼気な姿に喉をならした。呆れたようにキャサリンに流し目を送られた気がしたが、そちらはあえて見なかった。
アイリスは何度かしゅん巡した後、震える唇で言葉を紡ぐ。
「……分かっているの。私も二人が大切だから。でも…」
「ほら、ルーク!あんたこんなところで、いつまでもアイリスを見せ物にする気?男なら決めるとこはビシッと決めなさいよ!」
「はぁ?……いってぇ!!」
キャサリンはわざわざ俺の後ろに回り込んで、背中をバシンと叩いた後、「後は、2人で話し合いなさい」と軽やかな足取りで店を後にした。
呆然とその後ろ姿を見送っていると、ぎゅっと腕を引かれた。
「私に何を隠しているの、全部ちゃんと話して」
真剣なアイリスの顔から、一度視線をそらす。
店内では、来店客たちが固唾を飲むようにこちらを見つめている。
大きくため息を一つついて、アイリスの手を引く。
「とりあえず、家に行くか」
■
いつもの定位置であるソファに腰掛けた後、アイリスはじっと俯いていた。
俺も、一体なんと声をかけたらいいか分からず、膠着状態が暫く続いた。
そして、ポツリとアイリスが言葉をこぼす。
「……私にはあなたの気持ちが見えない。ルークは結婚をしたいの?私と結婚をしたいの?」
「今さら何を言ってるんだ?俺はお前と結婚したいって、ずっと言ってる」
「だって、私あなたのことなんにも知らない。あなたが好きな物も、嫌いな物も……どんな人生を歩んできたのかも」
アイリスの言葉に首を傾げる。
結婚の話題がなぜ、俺の人生の話になる?
「そんなの、これから知っていけばいいだろう?」
「私は知らないのに、他の人は知っているの?」
前も言っていたが、アイリスはどうしてそんなことに拘るのだろうか?
大体、他の人って誰だよ。
俺が考え込んでいる間にも、アイリスの言葉は止まらない。
「どうしてそんなに結婚を急ぐの?お互いのことをこれから知ればいいと言うなら、結婚はその後でしょう?」
アイリスの言葉に思わずカッとする。
「あぁ?これ以上待てるか!」
「だから、それはなんでなの?」
よく見るとアイリスの瞳には今にも零れそうな涙が盛り上がっていた。
「ま、待て、泣くな」
「……私ばっかりがあなたのこと好きなの?あなたの気持ちが見えなくてつらいの」
遂に、涙が溢れ落ちた。




